2009年 10月 08日

BNさんのご質問

よく分からないのなら①

あの本で疑問を持ったことがあります。『痛みを知る』(2007.12.25初版、東方出版)では、
「神経繊維は通常、その末端にある受容器からの信号を伝えるものであって、その途中が興奮を起こしたりすることはありません。」(p.117)とあります。

しかし、この記述は「通常」の話であって、「切れた神経の『発芽』が、強い痛みを起こす」という文脈での前置きです。

上記の続きは、「神経を切るとその切れたところから神経の先が無数に伸びてくる『発芽』という現象が起こります。」「発芽の先の部分は原始的であるために、正常時にはないいろいろな受容体や興奮の仕組みを持っています。」


これについてちょっと説明したいと思います。

このような痛みをCRPSタイプ2あるいは神経障害性疼痛といいます。

先日これについて書きましたが

神経障害性疼痛

神経損傷後に発症する神経障害性疼痛などの難治性慢性疼痛は発症メカニズムが不明のために、治療薬や治療法が無く、世界で2200万人以上の患者がこの様な痛みに苦しんでいるとされている。

第23回「痛みの研究会」の抄録より  井上和秀先生 (九州大学大学院薬学研究院医療薬科学部門薬理学分野教授)


ヘルニアや脊柱管狭窄症によるとされている痛みが神経障害性疼痛(CRPSタイプ2)だとは絶対におもえないのです。

これはちょっと生理学を勉強した人、臨床を経験した人にとっては理解できることなのです。

この痛みが手術によって治るとは到底思えません。

b0052170_15143978.jpg図を描くと左図です。

ヘルニアのところで生じた痛みの電気信号が脳へ向かいます(異所性発火)。

脳はヘルニアのある場所が痛いと感じることができず、神経の分布しているところ(下肢や臀部)が痛いと誤認するということです。

つまり、幻の痛みです。これでは圧痛点は証明できないのです。

ときには、傷ついた神経が交感神経や触覚神経と交通することもあります。

「痛み学・NOTE」28. 神経因性疼痛の基本的な仮定
「痛み学・NOTE」21.  根性痛は本当に神経因性疼痛なのか?

_____________________________

もっと複雑に絡み合ったものなのではないかと、一患者として感じています。

是非、学会での論文発表を前提に、いろいろな立場の方と議論を戦わせて頂きたいと願うばかりです。でないと、科学的な追試・検証がないまま、その場限りの言いっぱなしで終わってしまいそうです。


傍観さん

私個人としては、筋痛症は存在すると思いますが、ヘルニアによる弊害も当然あると思います。


MPS研究会のメンバーが外国の専門誌に投稿して採用されたそうです。おたのしみに。

まず、私たちがよりどころとしているのは

線維筋痛症診断基準(1990)、筋筋膜性疼痛症候群診断基準(1990)

これはもう20年ほど経て世界的に認知されているのです。不備があれば訂正される時間的猶予はありましたが、いまだにこの診断基準が使われています。

これは「圧痛点」が唯一の他覚的なよりどころなのです。

一方、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の世界に認められた診断基準なるものは存在しません。そんなもの作れっこないのです。だから世界的にはないのです。

日本で「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」「脊柱管狭窄症診療サポートツール」なるものが作られましたが、内容は何度も書いているように、生理学的にも疑問の多い代物です。

筋痛症と類似点が多いのなら、その鑑別診断(相違点)を記載すべきなのです。

これらは、診断基準もなく、脊椎外科医が先輩から脈々と受け継がれてきた「伝承医学」的な感じなのです。

それには矛盾点が多く、とても納得できる理論がありません。

手術してもしなくても結果は変わらない。

健常人でもみられる。

ヘルニアがなくても痛い人がいる。

生理学的に矛盾がある。

唯一、「手術をして治ることがある」ということがよりどころなのです。

しかし、治らない人もたくさんいる。2度3度と手術をする人もいる。ある掲示板ではほとんどが複数回手術をしていて、今なお痛みをもっている。

これらを絶対に合理的に説明できません。

筋肉のspasmが痛みの原因だとすれば多くの疑問は解けていきます。生理学者も慢性痛の多くは筋性疼痛だといっています。

手術で治ることがあるのは、術中の体位、全痲、局痲の作用もさることながら、手術という最も強烈な儀式としての効果があって、筋肉のspasmが治まったのではないかと思います。

変形性膝関節症への関節鏡下デブリドマンはプラセボ効果しかない

これはとても有名な調査ですが、局所麻酔で手術をしています。

〔サンフランシスコ〕 当地で開かれた米国整形外科医学会(AAOS)の年次集会で,ベイラー大学医療センター(テキサス州ヒューストン)整形外科のBruce Moseley教授は,変形性膝関節症(膝OA)の患者に関節鏡下デブリドマンや関節内洗浄を行っても,2 年後の予後はプラセボと差がないとする研究結果を発表した。

同研究では膝関節痛がある患者180例に、関節鏡下デブリドマン、関節鏡下膝関節内洗浄、器械挿入または軟骨切除をしない模擬関節鏡下小切開手術が行われた。3群に無作為に割り付けられた被験者は全員がインフォームドコンセントに署名し、同じ外科医の手術を受けた。

同意の手続きで擬似(sham)手術のみを受ける可能性があることを実際に説明した結果、研究参加基準に合致した被験者324例のうち、44%は参加を断った。研究期間中は一貫してどの手術を受けるか被験者にわからないようにした。

2年間の追跡期間で、3群全てで疼痛および膝関節機能の中等度の改善を報告したが、デブリドマン群も関節内洗浄群も、プラセボ群より成績が良いわけではなかった。追跡期間のある時期において、擬似手術を受けた患者の転帰はデブリドマン群より良好であったと報告された。

関節鏡下膝関節手術によりほとんどの患者の疼痛が軽減することが過去の臨床試験で明らかにされたが、実際の手術と擬似手術の比較はされていない。米国では、年間65万例以上の関節鏡下のデブリドマンや洗浄処置が行われているが、その多くは関節症患者で、費用は1回約5千ドルである。

「本研究は、手術方針に重要な関わりを持つ」と同博士は話す。「膨大な利益をもたらす産業を後押しする推進力が全てプラセボ効果であることが判った。医療産業は、純粋に主観症状を軽減する外科処置のプラセボと比較した有効性をテストする方法を考え直す必要がある」

付随論説において、壊死組織の関節鏡下切除が単に関節破壊のエビデンスを除去しているに過ぎず、症状に対する効果はないに等しい、とボストン大学のDavid T. Felson, MDとアイオワ大学(アイオワシティ)のJoseph Buckwalter, MDは示唆する。


つづく
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by junk_2004jp | 2009-10-08 12:56 | 痛みの生理学 | Comments(10)
Commented by at 2009-10-08 16:28 x
>唯一、「手術をして治ることがある」ということがよりどころなのです。
生理学が正しいか正しくないか知りませんが劇的に直るならいいのではないでしょうか?そんな何年も何年も痛みが出る度にTPBを連発しても結局直ってませんよね。痛みが麻痺されているだけですよね?

>治らない人もたくさんいる。2度3度と手術をする人もいる。ある掲示板ではほとんどが複数回手術をしていて、今なお痛みをもっている。
2chでしょうか?笑 術後皆さんもっと早くに手術したらよかった。今までの苦しみは何だったのか。と言っている人が大多数なのは間違いありません。大多数の方が術後、半年、1年検診だけなのですが、あまり症状が思わしくない方は書き込みもするでしょうね。しかし先生、あくまでも大多数の患者を見て発言してください。先生の所に来る方も沢山と言われればそれまでですが。
Commented by 傍観 at 2009-10-08 17:23 x
では、腰痛が酷くて先生のところに来た患者さんに、針だけ刺して抜いてみたら筋肉のspasmが治まる人がいるんじゃないですか?

これもプラセボじゃないですかね。
Commented by KosuGi at 2009-10-08 19:02 x
>傍観さん
こんな治療法もありますよ。
ttp://www.feel-tp.com/
Commented by at 2009-10-08 19:15 x
>手術という最も強烈な儀式としての効果があって、筋肉のspasmが治まったのではないかと思います。
手術された方は術後とても気持ちよく目覚めると思っているのでしょうか?頚や腰の全身麻酔による切開手術の場合、術後患者さんはとても不安で緊張しています。体にも非常に負担がかかっています。さらに術後長い方は数日傷口の痛みなど大変な事が多いです。でも劇的によくなっているのはなぜですか?

内視鏡手術もそしうですが、術後の患者を見てどこから全麻や儀式による筋肉のスパムが出てくるのがまったくわかりません。手術などストレスの最たるものですよね?
Commented by KosuGi at 2009-10-08 19:38 x
>木村さん 他
とりあえず捨てアドを確保しましたので、先ほどの和歌山県立医大の論文を御希望の方は以下にメールをくださいませ(※とりあえず2つ送ります)。
→ studeis4mpsあっとgmail.com です。
Commented by 治らない患者が悪いの? at 2009-10-09 00:38 x
>>笑さん
笑さんと同じように私も生理学的な正しさは分かりませんが
>>手術で劇的に直るならいいのではないでしょうか?
治るケースはそれでも構いません。いいじゃないですか?
それで手術で治らないケースについては医者は何をしてくれるんでしょう?
手術で治った大多数は無視してもらって結構。治らなかった少数を救って下さい。
手術で治らなかった少数が辛いんです。

身体を切っといて「治らなかったお気の毒としか言いようが無い」なんてどうかしてる。
はっきり言って患者としては殺意を抱く言葉です。
原因を取り除いたのに痛みが消えなかったら原因が間違っていた。
これって診断ミスでしょう?そうじゃなきゃ手術が失敗したんだ。
だって治るはずなんだから!医者ってそんな適当なんですか?

正直、私はTPBが正しいかどうか分かりません。
でも、分からないなら他の可能性を探る・・・その結果がこちらの先生にとってはTPBだったわけで
たぶんTPBが完全に否定されたら、他の理論を探してくれると期待できます。
笑さんは手術で治らない患者は救ってくれないんですか?
Commented by junk_2004jp at 2009-10-09 00:44
↑それは違いますよ。

痛み回路の可塑的変化があります。
Commented by 治らない患者が悪いの? at 2009-10-09 00:59 x
>> junk_2004jpさん
すいません。私は全然素人なもので「痛み回路の可塑的変化があります。」と言われても正直「そうなんだ」と思うし
逆に「ヘルニアが原因です!」と病院で言われて「そうなんだ」と思ってしまうような人間です。
治らない少数にとっては大多数を治して、それでいいと疑問を持たない先生より
こちらの先生の姿勢は期待ができるという意味ですので深くは突っ込まないで下さい(笑)

そんなわけで本当はコメントをするような立場ではないですが、過去のコメントを見て頭に血が昇りました。
専門家の方が多いので、こんな発言は普通なのかもしれませんが
私は笑さんがどういう立場の人間かは分かりませんが
少なくても下の発言は最低な発言だと怒りを感じました。
医者って実際はこんなもんなんでしょうか・・・。

>> >手術をしてよくならなかった人にはなんといえばいいのですか?
>> 僅か数パーセントの方にはお気の毒としか言えません。
Commented by junk_2004jp at 2009-10-09 01:11
ごめんなさいね。

私たちはTPBですべてが治るといっているのではありません。

痛みが慢性化するとそれは大変です。

急性痛のうちに簡単に取ってしまうことです。
Commented by at 2009-10-09 10:23 x
>治らない患者が悪いの?さん
>身体を切っといて「治らなかったお気の毒としか言いようが無い」なんてどうかしてる。はっきり言って患者としては殺意を抱く言葉です。

病院で日常的にこのようなやり取りが行われている事はありません。あったら手術なんて出来ませんし、捉え方の違いなんでしょうね。しっかりとした専門医ならまず大丈夫ですし、たとえそのような声を手術する医師が聞いても自信を持って今も手術を勧めています。

なぜなのでしょうね?お金儲け?権威?MPSを知らないから?違うと思いますけどね。

全国で手術できる施設はどのくらいなんでしょう?手術の多い施設なら年間200例を超えるそうですが、一つの施設に付1年間で1人術後思わしくない方が出たとしても全国で考えると多いかもしれませんね。

その患者がTPBで直るなら素晴しい事ですね。


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