2010年 03月 05日

腰痛患者への決まりきった画像検査 :不明確な意義


THE BACKLETTER No.59 Junuary 2010

Routine Imaging for Low Back Pain:Through a Glass Darkly

画像検査は診断過程を明確にすると思われているが、腰痛分野の進歩を確実に妨げていることが立証された。特に米国における脊椎医療では画像検査の過剰使用と誤用が、腰痛患者に不利益をもたらしているというエビデンスが多く認められている。

腰痛の画像検査は慎重かつ賢明に、エビデンスに基づいた適応のある場合にのみ実施すべきであるという点で、科学的ガイドラインとアルゴリズムは一致している。それにもかかわらず実際の医療現場では、決まりきった画像検査を支持する意見に押されて、これらの注意深いアルゴリズムは無視されていることが多い。

画像検査が不適切に実施されると、疼痛の発生源を特定できない。むしろ誤った可能性を引きずって診断を進めることになる。患者の恐怖心や不安を高め、患者と医師の行動に影響を及ぼし、的外れな治療へと導く結果になる。

過去15年間の一連の研究において、明らかな適応のない場合の決まりきった画像検査では、診断や予後予測に役立つ情報は得られないことが示唆されてきた。そして今回、新しい体系的レビューとメタ解析から、決まりきった画像検査の役割に関する一層有力なエビデンスが得られた。

Oregon Health and Science UniversityのRoger Chou博士らは、腰痛に対してすぐに腰椎画像検査(x線、MRIまたはCTスキャン)を行う場合と、すぐに画像検査を行わない通常の診療を比較した6つの無作為比較研究(RCT)について、変量効果モデルを用いたメタ解析を行った(chou etal.,2009を参照)。

結果は明らかであった。「背景にある重篤な病態を示唆する所見のない腰痛に対する腰椎画像検査は、臨床アウトカムの改善につながらない。したがって臨床医は、背景にある重常な病態を示唆する所見のない急性または亜急性腰痛の患者には、すぐに決まりきった腰椎画像検査の実施を控えるべきである」と研究は結論づけた。

認識できる利点なし

患者は通常、確実な診断とアウトカムの改善につながることを前提として、画像検査を希望する。それにもかかわらず筆頭著者のChou博士によると、新たに行ったメタ解析の患者の場合、決まりきった画像検査は認識できる利点につながらなかった。

「我々の研究は、腰痛患者に決まりきったX線またはMRI検査を実施することが疼痛、機能、または不安感の改善につながらないことを示している」とChou博士は述べた。生活の質(QCIL)は改善されなかった。

決まりきった早期画像検査は利点の明らかになっていない診断方法であるが、重大な欠点がある。「他の医学的介入と同様、画像検査にはリスクが伴う」とchou博士は述べた。「腰椎のX線またはCT検査による放射線被曝(次の記事を参照)に加えて、これらの検査には費用がかかり、その後の診療にも影響する。手術をはじめとする不必要な侵襲的処置もそれに含まれる」。

アウトカムの悪化傾向

「我々の研究では、決まりきった画像検査を受けた患者は[研究期間中に]アウトカムが悪化する傾向すら認められた。なぜこのようなことが起きるのかはわからないが、画像検査が患者を安心させるのではなく、偶発的所見に対する心配をさせてしまった可能性がある。これが原因で、おそらく腰の健康維持に最も重要な運動や活動的な生活を続けることを、患者が止めてしまう可能性がある」とChou博士は述べた。

共著者のRichardA.Deyo博士も、不適切な画像検査に関連するリスクを指摘している。「私はやはり画像検査の過剰使用は過剰治療を促進する重要因子だと思う」とDeyo博士は述べた。

博士はこのレビューで考察した2研究を指摘している : 「Denise Kendrick博士らによる決まりきったx線使用に関する英国の研究とMRIに関する我々自身のRCTは、 決まりきった早期画像検査がそれぞれ医師による診察および手術の增加につながり、アウトカムは改善しないことを示唆した」(Kendrick et al.,2001;Jarvik et al.,2003を参照)。

「私は画像検査によって明らかになった異常の多くは、症状の原因ではない可能性があるにもかかわらず、画像検査があらゆる介入を正当化しているのではないかと懸念している。しかし、目に見えるエビデンスは患者と医師の双方にとって説得力がある」とDeyo博士は付け加えた。

医師の役割は何か?

画像検査の過剰使用は、確実な診断を要求する患者が原因だと非難したくなるかもしれない。しかし、医師も過剰使用を助長する重要な役割を果たしている。

これまで脊椎医療は、画像検査の有痛性異常の同定能力を過信し、何度も危うい経験を重ねてきた。

今でも、決まりきった画像検査は老化した脊推に一般的にみられる一連の変性性変化の中から、疼痛の重要な発生源を同定するのに役立つという誤った考えを抱いている医師がいる。

しかし、これらの一般的な画像上の変化を腰痛と結び付けるエビデンスは、どう見てもあいまいである。

症状と画像所見との関連性は弱い

「椎間板変性疾患、椎間関節症、さらには椎間板へルニアまたは椎間板膨隆のような一般的な画像所見と、腰痛との関連性は非常に弱く、無症候性の所見を症候性の所見と見分ける方法はない」とChou博士は述べた。

「大部分の患者に [これらの不確実な画像検査所見に基づき]特定の診断名をつけることが、治療方針や標的を決めるのに役立つ、あるいは患者の症状を改善するのに役立つというエビデンスは存在しない。実際に我々は患者に診断名をつけて、健康的な活動が腰に与える影響についての不安または恐怖心をかき立てることによって、悪影響を及ぼしている可能性がある」と博士は述べた。

自己防衛的な画像検査が依然として一般的である

画像検査は別の種類の恐怖心に対処するために行われることもある:すなわち、医師が「何かを見落としている」のではないか、これが治療成績の不良および医療過誤訴訟につながるのではないかという恐怖心である。最近の調査によると、自己防衛的な画像検査が米国では非常に一般的に行われているようである。

Chou博士は、医師はここ数年間に作成されたエビデンスに基づくアルゴリズムとガイドラインを信頼すべきだと示唆している。もし臨床医がこれらのアルゴリズムに注意深く従うなら、重篤な病態を見落とす可能性は低い。

Chou博士によると、「腰痛を取り巻く状況はかなり独特であり、さまざまな画像検査法に関連する臨床アウトカムを評価した質の高い無作為比較研究がある。これは珍しいことである。何故ならば、大部分の診断検査の研究は、臨床医が検査結果を知りこれらの結果に基づいて行動した時に現実に患者に何が起きるかということよりも、むしろ感度や特異度のような中間的アウトカムに焦点を合わせているからである」。

「したがって、我々がもっている工ビデンスは非常に強力であり、これらのガイドラインに従うことについて、より大きな確信を医師に与えるはずである」とchou博士は主張した。

「もうひとつの重要な点は、見落としてしまった癌のような重篤な病態を探すために患者を追跡調査したすべての研究の中で、(見落とした)症例が1例でも見つかったものはなかったということである。これは、一旦、「危険信号」の評価を行いそれらが検出されなければ合併症のリスクは非常に低いことを示した大規模な観察研究と一致する」と博士は述べた。

RCTのメタ解析

Chou博士らは、腰痛/下肢痛の患者において決まりきった腰椎画像検査(または画像所見の決まりきった提供) をすぐに行う場合と、すぐに腰椎画像検査を行わない(または画像検査結果を提供しない)通常の臨床診療を比較したRCTを同定するため、広範囲の文献検索を行った。

1,804例の患者が含まれる6つのRCTが選択基準を満たした。6研究のうち5研究は米国または英国で行われた。6番目の研究はインドネシアで行われた。それらの研究の大部分の被験者には急性または亜急性の腰痛があった。研究の追跡調査期間は3週間から2年までの範囲であった。

研究では次のアウトカムのうち、少なくとも一つが報告されていなければならなかった:疼痛、機能、精神的健康、生活の質、患者の満足度、または患者が報告した全般的改善度である。

すぐにx線検査を行う場合と、x線検査をすぐには行わない通常の診療と比較した研究は4つあった: 一つの研究では腰推MRIまたはCTをすぐに行う場合と、画像検査を行わない通常の診療とを比較した。そしてもう一つの研究では、すべての被験者がすぐにMRIスキャンを受け、結果をただちに提供する群、または臨床的に必要な場合にのみ提供する群に無作為に割り付けられた(Deyoet al..l987:Dials and Kalim. 2005:Gilbert et at..2004:Kendrick et al., 2001:Kerr、・et at..2002:Modic et aI.,2005を参照)。

研究者らは、修正されたCochrane Back Review Group基準を用いて研究の質を評価した。半数の研究は「比較的質の高い」研究方法を使用したと評価された。それらは8項目のCochrane基準の半数以上を満たした。

メタ解析、その長所および潜在的短所の詳細は研究を参照されたい。

短期的または長期的な利点はない

Chou博士らは、短期的または長期的な主要アウトカム評価項目において、早期画像検査の利点を見いだすことができなかった。「他のアウトカムには有意差が認められなかった」と博士らは述べた。

これらの結論が最もよくあてはまるのは、プライマリケアで評価を受けた急性または亜急性腰痛の患者であると、博士らは述べた。それらの研究の1つで得られた結果も、MRIまたはCTは慢性腰病の評価において決まりきった適応ではないことを示唆した。(Gilbertetal.,2004を参照)。しかし、慢性
症状のある患者における決まりきった画像検査の価値を評価するため、更なる研究が必要である。

メタ解析に含まれた大部分の研究では比較的短期のアウトカムが報告された。1年以上のアウトカムを追跡したのは1研究のみであった。

したがって手短に言うと、決まりきった早期画像検査は、危険信号または重篤な病理学的異常を示す他の徴候のない患者に対して明らかな臨床的利点があるようには思われない。決まりきった早期画像検査が臨床的に重要な病理学的異常の同定につながるというエビデンス、または効果的な治療を特定するのに役立つというエビデンスは存在しない。そしてChou博士とDeyo博士がいずれも強調したように、決まりきった早期画像検査には短期的および長期的なリスクがあるようである。

利益率はどうなのか?

决まりきった早期画像検査にはひとつの潜在的利点、すなわち経済的な利点があるように思われる。最低水準の費用償還が行われる時代にあって、院内の画像検査設備は、診療現場と医療システムに大きな利益をもたらす可能性がある。そして米国ではここ数年、医師が所有する画像検査設備が急激に增加している。

しかし、患者にマイナスの結果をもたらす評価法から収入を得ることは、明らかに難しい倫理的問題を引き起こす。そしてこのやり方が今後、重大な結果につながる可能性もある。

もし医師が不必要な画像検査を削減しなければ、費用支払い機関がこれらの決定を他の機関にまかせる道を開くことになるだろう。The WallSt.Joumalに最近掲載された報告は、費用支払い機関が画像検査の決定について大規模な再調査を行うため、すでに「放射線利益企業(radiology benefit companies)」を利用していることを示唆した。

米国では約9,000万人の消費者がこれらの企業の管理対象になっている。費用支払い機関には独自の業務上の優先事項があり、これらは必ずしも患者と医師の最善の利益と一致しない。したがって、もし画像検査の決定が今後も科学的エビデンスの十分な理解に基づいて、医構、現場で医師と患者が協力し合って行われるならば、そのほうが望ましいことであろう (Mathews,2008 を参照)。

001.gif決まりきつた早期画像検査にはリスクがあるが明らかな利点はない

001.gif危険信号がない急性または亜急性の腰痛に対する決まりきった早期画像検査についてのいくつかの重要メッセージ

・確実な診断を求める患者へのメッセージ:決まりきった早期画像検査は確実な診断または疼痛、の質の改善にはつながらない。

・画像検査の明らかな適応のない患者において特定の診断を追求することに関心のある臨床医へのメッセージ:腰痛と一般的な画像所見との関連は弱く、症候性の所見と無症候性の所見を効果的に見分ける方法はない。

訴設を態念する臨床医へのメッセージ:医師は、エビデンスに基づくガイドラインとアルゴリズムが、重常な病態の危険信号を同定し、脊椎の画像検査に対するエビデンスに基づく段階的アプローチを可能にすると確信できる。
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by junk_2004jp | 2010-03-05 20:12 | Comments(0)


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