2012年 08月 06日

「神経障害性疼痛」という玉虫色の言葉

小川節郎先生の「神経障害性疼痛の疫学と現状という論文から。 赤字は私の意見、感想

・神経障害性疼痛(neuropathic pain;NeP)は刺激や炎症による侵害受容性疼痛とは異なり、NSAIDsに治療抵抗性の疼痛と知られている。

・国際疼痛学会では「体性感覚系に対する損傷や疾患の直接的結果として生じている疼痛」と定義されている。

以前はneuropathic painを神経因性疼痛といったものだ。神経線維が傷ついたときに他の神経線維と交通して生じることがある。幻肢痛が代表的。最近は神経障害性疼痛といっているようだ。

・本邦においては、慢性疼痛の疫学調査はいくつか報告されているが、神経障害性疼痛の疫学についての報告はなかった。

たぶん、どういう状態を神経障害性疼痛というのか、研究者の間で一致した考え方がないからであろう。

・国内ではおおむね成人の5人に1人が慢性疼痛

・神経障害性疼痛は新しい概念

・フランス2004年;慢性疼痛保有者の21.7%(全調査対象の6.9%)が神経障害性疼痛

・ドイツ2007年;慢性疼痛保有者24.9%、全調査対象の6.5%が神経障害性疼痛

・ドイツの調査は神経障害性疼痛の特徴的な症状を電話で確認することで神経障害性疼痛の有無を調査している。

つまりレントゲンやMRIは必用がなく、神経学的検査も必用がないわけだ。特徴的な症状をきいて判断する。

    1)針でさされるような痛みがある
    2)電気が走るような痛みがある
    3)焼けるようなひりひりする痛みがある
    4)しびれのつよい痛みがある
    5)衣類が擦れたり、冷風が当たったりするだけで痛みがはしる
    6)痛みの部位の感覚が低下していたり、過敏になっていたりする
    7)痛みの部位の皮膚がむくんだり、赤や赤紫に変色したりする

・ペインクリニック専門医により開発された自己記入式の神経障害性疼痛スクリーニング質問票を用いて、スコアが6点以上を神経障害性疼痛とした。

・本邦では26.4%が慢性疼痛、そのうち24.1%(全調査対象の6.4%)が神経障害性疼痛

・国民の役660万人が神経障害性疼痛

・疾患別の神経障害性疼痛の有病率 

       帯状疱疹患者の10~15%
       脊髄損傷患者の75.3%
       糖尿病患者の20%

・神経障害性疼痛は他の慢性疼痛と比較して重症度が高く罹病期間も長い

脊椎外科医が神経障害というと椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症をおもい浮かべることだろう。しかし、上のペインクリニック医の論文ではそのどちらもでてこない。

ペインクリニック医のいう神経障害性疼痛というのは慢性痛のうちの自律神経症状の強い重篤なものをそういっているようだ。

ほんとうに神経を損傷したあとに痛みがあるCRPSタイプ2と慢性疼痛の重篤なものは臨床的には症状から判断すれば違いがなくこのように表現されるのであろうが、説明がややこしく脊椎外科医がまちがって理解する可能性がある。

 

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by junk_2004jp | 2012-08-06 18:51 | 痛みの生理学 | Comments(8)
Commented by タク at 2012-08-06 20:46 x
「Neuropathic pain の和訳―日本ペインクリニック学会・用語委員会報告―」
http://www.orh.go.jp/masui/Resources/091105_03.pdf
Commented by junk_2004jp at 2012-08-06 21:23
これをみると神経障害が存在することが絶対的条件となっている。
つまりCRPSタイプ2だね。

そのようなことが電話調査で分かるだろうか?

また6.4%もいるであろうか?
Commented by junk_2004jp at 2012-08-06 22:00
機能的障害でもいいのなら、うつ病もそうだよね。

Commented by タク at 2012-08-06 22:23 x
単なる神経パルスを伝達する神経線維が神経パルスをgenerateすると言うことは、言葉遊びですが機能障害でなく、機能異常でしょう。 そんな高機能になるのには、c-fosの発現とか遺伝子レベルとか、修復する時に間違った修復に仕方をするとか…。SFな世界です。ただ、アロデニアの機序でよく説明されるように、中枢は原則修復されないがNGF-発芽のように何らかの中枢でのニューロンの変化が示唆できます。

細胞が死滅しない限り、機能するでしょう。癌細胞みたいに細胞外から栄養が送られ続ける。

「ヘルニアの手術をしたら痛みが治った」 そんな手術でこの変化が元に戻せるの?

機能障害=機能しないなら、電話線が不通と同じでは? 伝わらない。

そんなニューロンの振る舞いを電話の所見だけで調査? そんな細胞が変わる?受精卵から始まって細胞の分化とはいかに…。
Commented by ろば at 2012-08-09 12:43 x
先生、あんまり無理されないでくださいね。いつ寝ていらっしゃるのか…と。

記事途中の赤字も先生のご意見ですよね?ちょっと判断し辛かったので…。

先生は脊椎外科医始め、多くの人に誤解を与えやすい内容だとおっしゃっていると理解しました。

専門や国によって、痛みの種類わけや呼び方が違う、また仕組みの理解や判断基準、テスト方法検査方法が違ったりするのが、庶民にはやりきれません。
続きます…
Commented by ろば at 2012-08-09 12:45 x
一昨日偶然、この記事と調査結果読みました。

ファイザーとエーザイ、「痛み治療の最前線 痛みの種類に応じた治療の重要性」セミナーを開催
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2012/2012_07_11.html
≪47都道府県比較 長く続く痛みに対する意識・実態調査
http://www.mylifenote.net/014/120718_201222.html
http://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2012/documents/20120711.pdf

ファイザーとエイザイが行った調査を受けての記事や論文だったと思うんですが、全国9400人をインターネット調査で集計し、結果私が疑問だったのは、慢性疼痛患者のうち自分が神経障害性疼痛だと知っている人は1/4もいたんです。私はこのこと自体が信じられません。この言葉がそんなに浸透しているとは思えず、知っているなら効く薬を飲んでさっさと治ってるようにも思うし…とリリカで生きてる私が言っても説得力ないかしらん。ペインに行った人の1/4なら信じてもいいかな…。

ファイザーのこのサイトも小川先生監修なんですよね。
http://toutsu.jp/
ここも、これがペインの先生基準の分け方なんだなぁと、考えながら読める人はいるのか疑問です。
Commented by junk_2004jp at 2012-08-09 13:34
ご心配ありがとうございます。オリンピックをみながら書いています。

そうですね。時代や研究者によって言葉の解釈がちがってくるわけです。

リリカは神経障害性疼痛の治療薬というより慢性痛の治療薬ですね。

脊椎外科医は手術をしても治らないものに対して神経障害が進んでいたためだといいます。

中枢性感作・・・中枢神経の可塑的変化・・・・これを神経障害というのなら、慢性痛はすべて神経障害性疼痛になりますね。
Commented by junk_2004jp at 2012-08-09 14:00
線維筋痛症のほとんどは電話調査では神経障害性疼痛になることでしょう。

リリカは最近線維筋痛症の適応をとりましたが、以前は末梢性神経障害性疼痛でした。

本当は中枢性神経障害性疼痛といったほうが的確なんですが・・・。

慢性痛で末梢神経が損傷されているものは糖尿病、帯状疱疹後、神経切断など、その数は少ないです。6%もないでしょう。

慢性痛は中枢性感作(中枢性痛覚過敏)ですね。これで表現したほうがいいと思います。


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