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心療整形外科

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2013年 10月 04日

Locomotive Pain Frontier Vol.2 No.2

メディカルレビュー社のLocomotive Pain Frontier Vol.2 No.2 に当院が紹介されました。
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「損傷モデル」では 腰痛を説明できないと気付き、筋肉のけいれん、緊張に着目

ー腰痛の原因が「筋肉のけいれん、緊張」だという考えに至った経構を教えてください。

加茂 多くの整形外科医は、腰痛を「損傷モデル」の考え方に則って捉えています。具体的にいうと、「椎間板の老化によって生じる椎間板症や椎間関節症、すべり症、分離症などの脊椎の構造異常が痛みの原因である」、「椎間板へルニアや脊柱管狭窄症で、神経根が圧迫されて、その神経が支配する領域に痛みやしびれが生じる」という考え方です。

私も、 整形外科医になった当初、指導医より、そのような「損傷モデル」の考え方を学び、腰痛をそれに則って捉えていました。しかし、臨床現場では、「損傷モデル」の考え方には当てはまらない多くの患者を診てきました。レントゲンやMRI検査により、脊椎や腰椎の構造異常を確認し、椎間板症や権間関節症、すべり症、分離症などと診断しても、痛みがまったくない患者がいます。その一方で、レントゲンやMRI検査により、脊椎や腰椎の構造異常が確認されなくても、痛みを強く訴える患者がいます。また、「椎間板へルニアが神経を圧追しているから痛む」のだと、椎間板へルニアを治す手術をして神経の圧迫を解除すると、確かにそれで治る患者もいましたが、治らない患者もいました。

こうしたことから、「現実的に、損傷モデルでは腰痛に上手く対応できない」と考えた私は、痛みを臨床的、生理学的、疫学的に捉えなおし、「腰痛の本態は、筋肉のけいれんや緊張による痛みである」という考え方に至りました。

ー「筋肉のけいれん、緊張」により腰痛が生じるメカニズムを教えてください。

加茂  どこかで腰を打った、転んだ、重い物を持ち上げて、ぎっくり腰になったなどによる一過性の大きな侵害剌激”や、毎日、車を運転したり、草むしりをしたり、スポーツをしたりすることによる“慢性的な侵害剌激、あるいは裁判中など大きなストレス下にいるときに生じる“心理的緊張などで、痛み神経が刺激されると、脊髓反射により筋肉がけいれん、緊張し、痛みが生じる(腰痛) というメカニズム(図1)です。また、 痛みがあれば、筋肉がけいれん、緊張するので、ますます痛みが強くなり、さらに筋肉がけいれん、緊張して痛みを強くするという悪循環を形成します。

その過程において、痛みは、同じ神経高位(デルマトーム)内で脊髓反射する筋肉へ広がっていき(図2 A→B、C点)、さらに神経高位を超えて広がり、反対側に及ぶこともあります(図1)。当初は、一時的な1ヵ所(局所)の痛みであったのが、慢性的な部分の痛み(不全型慢性広範病症)となり、やがて慢性的な広がりをもつ部分の痛み(慢性広範痛症)から、最終的には慢性的な広がりをもつ全身的な痛み(線維筋痛症)に至ります。

ー一過性の大きな、あるいは慢性的な侵害刺激により、構造異常も生じているため(図1)、それが痛みの原因になっているとは考えられませんか。

加茂  確かに、構造破綻をレントゲンやMRIなどの画像検査で確認できることはありますが、それは先に述べたように腰病の原因ではありません。痛みはあくまでも筋肉のけいれん、緊張により生じており、構造異常とは関係ありません(図1)。

痛みの治療'構造異常の治療、 両方を治すことがべストだが、まずは痛みの治療を優先

ー先生の考えに則れば、腰痛をどのような方針で治療すればよいのですか。

加茂  痛みと構造異常をそれぞれ分けて考えるので、「痛みの治療と構造異常の治療はイコールではない」ことが前提となります(図1)。その上で、痛みも、構造異常も、両方とも治すことがべストです。 しかし、現在の整形外科学的手技では、構造異常を治せないことが少なからずあります。また、痛みが続けば、前述したように痛みがどんどん広がっていきますし(図2)、中枢性感作を起こし、中枢性痛覚過敏、さらには末梢性にも痛覚過敏がみられるようになり、場合によっては線維筋痛症に至ることもあります。中枢性、あるいは末相性の痛覚過敏がみられたり、線維筋痛症に至ったりすれば. おいそれとは治りません。とはいえ、誰が、線維筋痛症に至るのかはあらかじめ予測することも不可能です。したがって、痛みはできるだけ早くとることが重要で、腰痛患者を診れば、まずは痛みの治療を積極的に行っていくことが原則になります。

筋肉のけいれん,緊張を解くトリガーポイントブロック注射を中心とした治療を展開

ーでは,痛みはどのように治療するのですか。

加茂 痛みの原因となっている筋肉のけいれん、緊張を解く治療を行うことが最も有効で、その方法として、トリガーポイントブロック注射、 トリガーポイント鍼療法、ストレッチング、虚血性圧迫法(指圧法)などがあります。私自身は、トリガーポイントブロック注射(写真1)を積極的に試みています。

ートリガーポイントブロック注射とはどのような治療法ですか。

加茂  けいれんや緊張して、痛みを生じている筋肉の中には、 「筋硬結」あるいは「索状硬結」とよばれる部位が発生しています。これらの中に、物理的に力を加えると1前みを強く感じる圧病点が認められ、その中でも特に周辺を含めた広範囲に痛みを発生させる圧痛点があり、それを発痛点(トリガーポイント)とよびます。

トリガーポイントプロック注射とは、圧痛点、発痛点(トリガーポイント)をブロックすることで、筋硬結、索状硬結とよばれる硬くなった筋肉を弛めて、けいれんや緊張を解き、病みの電気信号が脳に伝わらないようにする治療法です。具体的には、これまでに報告されているパターンを念頭に置いて、圧痛点、発病点(トリガーポイント) を探りあてて、そこに27G. 19mmあるいは38mmの注射針を、触診しながら想定した病みを感じている筋内の位置まで刺し、0.5%塩酸メピバカインなどの局所麻酔薬を1 ~3ccほど注入していきます(写真1)。

除外診断→積極的診断→治療的診断により急性痛のうちに治癒を目指す
ートリガーポイントブロック注射を含めて、実際の腰痛診療の流れをお話しください。

加茂  腰病を訴えて患者さんが当院を受診されたら、最初に行うことは「除外診断」です。 レントゲンやMRI などの画像診断や血液字的検査を実施し、腰痛を生じるような悪性腫瘍、感染症、リウマチおよびその周辺の炎症性疾患、骨折などの明らかな外傷など、治療すべき構造異常があるかどうかを確認します。ただし、急性痛の場合、時間をたっぶりとって、丁寧に問診すれば、話を聞けば、たいていの場合、検査をしなくても除外診断が可能です。また、慢性痛の場合は、ほとんどの患者さんが他院でありとあらゆる検査を受けられており、当院を受診された段階では除外診断ができているというのが実際です。

いずれにしろ、除外診断の結果、前述した疾患がないことを確認したら、腰を押さえたり、伸ばしたりして、腰痛がどのような状況で強くなったり、弱くなったりするのかを調べる「積極的診断」を行います。その上で、ある治療をしたときに腰痛がどのように変化するか、どのような治療が腰痛に効果を発揮するのかを診る「治療的診断」を行います。

腰痛診療では特に「治療的診断」が重要で、その際に、私は先ほどお話ししたトリガーポイントブロック注射を試みています。 トリガーポイントブロック注射は反応が早く、効果をすぐに確かめることができるからです。急性痛の場合は、トリガーポイントブロック注射を1~数回行えば、ほとんどが治ります。 しかし、慢性痛の場合はそうはいきません。慢性痛では、治療的診断でトリガーポイントブロック注射を行っても、すぐに痛みがぶり返してきます。また、こうして痛みがすぐにぶり返せば、慢性痛だと判断して、さまざまな治療法を駆使しなければなりません。だからこそ、繰り返しになりますが、慢性病にならせないよう急性痛のうちに、トリガーポイントプロック注射を積極的に行うことで、早期に治癒することを1番の目標として診療にあたっています。

脳・脊髓の関与が大きい慢性痛は傾聴、共感、受容、支持、保証の上、総力戦で治療する

ー慢性痛に至った場合はどのような治療をするのですか。

加茂  急性痛でもそうですが、慢性痛では、「患者の訴えをよく聴き(傾聴)、その訴えに共感し、受容し、患者に支持を表明し、何らか(腰痛が治ること)の保証をする」という心療内科的な診察手法がより必要かつ重要になります。その上で、あらゆる方法を駆使して、慢性痛に対処します。治療選択肢としては、急性痛と同じく、けいれんや緊張して凝り固まっている筋肉にアプローチするトリガーポイントプロック注射や、低出力レーザ一照射、極超短渡照射、電気治療、マッサージなどのほか、ププレノルフィン貼付剤やトラマドール/アセトアミノフェン配合剤といったオピオイド製剤などの鎮痛薬があります。また、慢性痛では心身症的要因が強いこともあり、抗うつ薬や.抗てんかん薬、抗不安薬も治療選択肢となるケースがあるほか、認知療法や認知行動療法などを用いることもあります。このようにカード(治療法)はそれなりに揃っていますが、そのカードをどう切るか(いつ、どの治療法をどのように試みるか)には決まったストラテジー がないのが現状です。慢性痛の患者個々に、有効だと思われる治療法を試みてはその効果を見極めながら診療しています。

ー最後に今後の展望をお話ください。

加茂  実は、これまで述べてきた私の腰痛をはじめとする運動器疼痛、運動器慢性疼痛の治療の基本的な考え方は、 l983年にアメリカの医師.Janet G.Travell先生と, David G.Simons先生らが提明した、筋肉が原因となって痛みやしびれを惹起する筋筋膜性疼痛症候辞(MPS)という概念にほぼ合致していました。 今後は、腰病に悩む多くの患者が1人でも多く救われることを目指して、多くの整形外科医が、「損傷モデル」ではなく、「舫肉のけいれん、緊張に、心理・社会的な問題が絡み合った生物・心理・社会医学モデル」で痛みを捉えられるようにするために、MPSの概念の普及に努めていきたいと考えています。現在、同研究会を組織し、MPSの周知活動、情報提供、電子会議による研究、識論. 情報共有、および学術集会の開催などを行っています。


by junk_2004jp | 2013-10-04 18:16


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