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心療整形外科

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2016年 02月 01日

essay 痛みの記憶「理系男子の痛みの治療戦略」

Practice of Pain Management 2016 . 1

このたび、この雑誌のessay「痛みの記憶」という章に投稿の機会をいただいた。
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essay 痛みの記憶「理系男子の痛みの治療戦略」 加茂 淳

『腰痛は脳の勘違いだった』という本を紹介する。
2007年初版。慢性痛=中枢性感作をずばり表現した題で、この時期に一患者によって書かれたことに驚かされる。
私は医者でもないし、サイコセラピストでもないが、7年間にわたって激痛に苦しんだ「実績ある 腰痛患者」である 。医者から医者へと渡り歩き、さまざまな治療をうけながら、その一つ一つに対して自分なりに分析し、解釈し、次のステップヘと進んでいった。そうしてある治療方針に確信を持ち、実践してみると、ウソのように症状は消滅し、完治したのである 。私をあれほど苦しめた激痛の原因は、脳の勘違い一痛みのループを繰り返していたのだった。
『腰痛は脳の勘違いだった』より
確信をもった治療方針とは私のウェブサイトに書かれていることである。それを簡単に説明すると

●痛みは電気信号である。
●起電のエネルギーは外力である。
●電気現象であるから構造は関係がない(痛みの治療と構造の治療は別問題である)。
●ポリモーダル受容器で発電される(痛みの第一現 場)。
●神経線維は電線であり、それを踏んづけても電流 は生じない。
●脳 は電気信号を受信して痛みとして認知するだけでなく、自律神経系やホルモン系を介して反応す る。また、せき髄反射で筋肉を緊張させたりする (脳 ・せき髄は痛みの第二現場)。
●それが次の痛みを生む(痛みの悪循環)。
●早期なら第一現場に局所麻酔を打つなどの介入で痛みの悪循環をス トップすることができる。
●慢性化すると第二現場(脳 ・せき髄)の責任が大きくなり、抗うつ薬や認知行動療法が必要となることがある。

神経根は痛みの電気信号の通り道で、痛みの現場ではない。だから椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症は痛みの原因ではないと思っている。

著者の戸澤洋二氏は工学部電子工学科を卒業 し技術士として電気機器メーカーに勤務という経歴。電気回路的思考はお手の物だつた。

彼は腰や下腿の圧痛点に医師に頼んで局所麻酔を打ってもらい、痛みを感 じていない時間を利用 して趣味 の模型飛行機飛ばしに熱中した。それを週に1回の割合で繰り返し、見事3カ月で7年間続いた痛みのループから脱出できたということだ。

つまリトリガーポイントブロック+認知行動療法か成功したのだ.。慢性痛は生物・心理・社会的疼痛症候群といわれている。いろいろな要素が絡んだ複雑系なのだ。いつもこのように上手くいくとは限らないのだが、理論的な人にとって効果的な方法だつたのだ。

この本の評判がよかったおかげで、『 トリガーポイ ントブロックで腰痛は治る』という本を私が書くことになつたのである。

このessayには続きがある。
向かい側のベッドの宇多村元昭さんとおっしゃる 年配の男性は、軽い脳梗塞で入院したようだが、そんなふうに見えない。 とても博学な方で、実に 話が面白い。......偶然宇多村さんも同じく「技術士」の資格をお持ちの東京工業大学の教授でいらして、話がはずんだ。
『腰痛は脳の勘違いだった』より
その宇多村氏が8年後の2015年2月に腰・下肢痛に見舞わされたのだ。同氏は後縦靭帯骨化症による軽いせき髄麻痺を患っていた。

宇多村氏よリメールをいただ いた 。

(宇多村氏のメール)

去る2月 28日に外来リハビリを終えてリハビリマ ッ トから立ち上がった と きに左臀部に激痛が走 り足の力が抜けてマットに尻もちをつきました。立つこともできない痛みがあリス トレッチャーに乗って入院しました。思いだすとその10日ぐら
い前から動 くと左のお尻がチクチクする痛みがあ
りました。鎮痛剤を飲みながらリハビリを続けて
いますが、い まだに痛みが取れません......... 主治医に、加茂先生のご本を開いて トリガーポイ ントブロック療法受診について話したところ、興味を示されたので貸 したところ、「大変興味深い受診してみる価値 あ ります」と今回の診察に肯定的な回答を得ました .........。
ということで当院に来られた。退院後次のメールをいただいた.。

(宇多村氏のメール)


5月14日からの1週間の入院集中治療を終え帰 京して2週間が経過していますが、左臀部の痛みはすっかり消え仕事にも復帰しました トリガ ーポイントブロック療法のおかげです。本当にあ りがとうございました
「治る、イケる!」予感と自信は初診時に感じました。数本の注射を打って頂いたあと痛みがスッと消えた時、「 立ってみてください」と先生に言われて自然に立て歩けた時です 。車椅子で入院しましたが、おかげさまで退院時には車椅子を手放すことができました
第一現場へ局所麻酔を打つと いう介入だけで痛みの悪循環はス トップしてしまったのだ。慢性痛にはなっ ていなかったのだろう。

もう 1カ月遅かつたら慢性 痛に変化していたのかもしれない。宇多村氏の東京の主治医もこの治療法に興 味 をもたれ早速取り入れることを検討しているとのこと。

外カ によって生じた構造破綻の治療と、外力によって生じた痛みの治療はそれぞれ別の問題だということを肝に銘じておくべきだ。

痛みは早急に止めるべきだが、構造破綻は出血でも ないかぎりゆつくり落ち着いて治療の必要性や方針を考えればよい.。慢性痛は人生に多大な影響を及ぼすが構造破綻は健常人にもしばしばみられることがわかってきている。



by junk_2004jp | 2016-02-01 13:59


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