2007年 12月 11日

臨床痛み学テキスト

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一般に慢性痛には生物学的な意義はない。したがって、急性痛が慢性痛に変わったときには、マネジメント法を変更する必要がある(Sullivan et al. 1991)

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急性痛は本来備わっている生物学的機能であり、実際に生じている、あるいは生じている可能性がある身体的な傷の警告である (Melzack & Wall 1988)。傷の完治までには数日から数週間かかるであろうが、急性痛は通常、完治のかなり前に止まるものである(Looser & Melzack 1999)。過去において、慢性痛は治癒にかかる正常時間を過ぎても持続する痛みであると定義されていた(Bonica1953,Melzack & Wall 1988)。 3-6か月以上続く痛みはどんな痛みも慢性痛であると考えられることが多かった。 IASP分類特別委員会(Merskey & Bogduk 1994) は、時間経過と治癒のエビデンスに基づいたこの慢性痛の定義は不適当であると主張した。

IASP特別委員会は(Merskey & Bogduk 1994pxii)、慢性痛を次のように考えることを提唱した。
原則として、痛みに特効する療法に基づいた治療、あるいは非麻薬性鎮痛薬のような痛みのコントロールの決まりきった方法に反応しないしつこく続く痛み。


LoeserとMelzack(1999 p1609)は、次のように結論付けた。
急性痛と慢性痛の区別は、痛みの期間ではなく、より重要なことは、身体が生理的機能を正常な恒常性のレベルへ回復させられるか、させられないかである。


急性痛と慢性痛のこのような区別は、痛みのアセスメントと介入において重要な意味をもつ。急性痛は組織損傷を知らせるものであるが、慢性痛は組織損傷とは明らかに分離しており、 どんな起因病変とも、組織損傷の程度とも不釣り合いなものである。 慢性痛は、かなりの苦悩を伴っており、心理的、行動的、環境的な変化とも関連している。急性痛においても慢性痛においても、痛みというものは主観的な体験であるということを認めるべきであり、患者が「ある」と言った時に、そして「ある」と言った部位に痛みは存在しているのである (McCaffery & Beebe 1989)。

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徹底的に急性痛を治療する

急性痛を我慢しても、生理学的にも心理学的にも何のメリットもない。小児の場合、痛みが病状を悪化させてしまい(Unruh & McGrath 2000)、新生児の場合には外科手術後の痛みによって死亡率が高まることが報告されている (Anand & Hickef 1987)。また、痛みによって免疫機構の働きが妨げられることが報告された(Liebeskind 1991)。さらに、痛みの発生によって神経生理学的、心理学的に感作された結果、ますます痛みに対して過敏になり、痛みを経験しやすくなることが明らかにされた(Grunau et al. l994,Harman 2000,Taddioet a: 1995)。

臨床医や研究者の間では、急性痛を早期から徹底的に治療することが慢性痛の発症を食い止める、少なくとも慢性痛がもたらす能力低下の程度を最小限に抑えることができると考えられている。今のところはこれを裏付ける決定的なエビデンスはなく、示唆的な研究があるだけである。 しかし、痛みが持続すると生理学的(Liebeskind 1991)、心理学的に(Wall1999)有害であるというエビデンスはある。痛みや痛みの末路への恐れから不安を募らせ、不安から患者の注意は痛みばかりに集中する (Wall 1999)。急性痛が続けば、能力低下や社会的不利を生じるリスクを高めることになる。急性痛を早期から徹底的に治療することが禁忌とした報告はない。

徹底的に急性痛を治療するにあたり、二つのフェーズに分けて考えるとわかりやすい。一つは急性痛がまさに発生するフェーズ、もう一つはしだいに慢性痛へと移行するフェーズである。 しかし、理学療法を行い、必要に応じて自助具を使用しながら、適切に薬物療法pharmacological strategyを用いるとよい。急性痛が慢性化する、あるいは痛みのエピソードが繰り返されるような場合には、認知行動療法cognitive-behaviouralintervention(strategy)を合わせて治療を継続していくことが非常に重要になるだろう (第9章参照)。
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by junk_2004jp | 2007-12-11 21:15 | 痛みの生理学 | Comments(2)
Commented by 三節 at 2007-12-12 10:42 x
ジュニアスポーツにおいて多くの新鮮外傷(打撲、捻挫など)を治験しましたが、受傷による直接的な急性痛期(というよりは↑の記事にあるように生物学的に意味のある痛みを発している時間)は私がそれまで思っていたよりもはるかに短いことが分かっています。外傷ショックにより生物学的な警報としての痛みが出現しますが、そのスイッチはある期間入りっぱなしになっているようです。治療としての軽微な物理刺激を加えるとすぐにこのスイッチは切れます(たとえば捻挫で足首が腫れているのに痛みが取れて普通に歩けるようになる)。ということはこれは急性期における「ある意味ウソの痛み」と言えるとも思います。そしてこの時期になるべく早く、この痛みを取ってあげるということが慢性痛への移行を予防するために大切ということですね。ただしこの「ウソの痛み」は期間に無関係であることも分かっていますから、結局は臨床的診断をするしかありませんね。
Commented by junk_2004jp at 2007-12-12 11:52
早期に神経性炎症を止めて、二次的な痛みを出現をストップする。損傷というより、生理学的なトラブルを早期に解決する。なるべく早期にうごかす。

局所麻酔を打つのがとてもよいようです。ところが保険診療では認められず、請求がもどってきます。テーピングはかなりな点数ですが戻ってきません。どちらがよいか、経験上は分かっているのですが・・。


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