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2012年 03月 09日

ルーチンの画像検査に対する厳しい批判

Major Assault On Routine Imaging

THE BACK LETTER第67号

過剰な脊椎画像検査に対する批判が、おそらくこれまでで最も強まっている中で、米国内科学会(American College of Physicians:ACP)は、新しい方針の声明と解説を発表した。ACPは、ルーチンの脊椎画像検査はまったく価値のないもので、現代の脊椎医療から排除されるべきだと主張している。

米国の大規模な学会であるACPは、医療提供者に対し、ルーチンの画像検査には医学的利点がないのみならず、これが脊椎医療のコストとアウトカムに長期的な悪影響を及ぼすことについても考慮するよう求めている。

Roger Chou博士らの新規臨床ガイドライン(Chou et al.,2011を参照) によれば、「米国内科学会は、腰痛患者のx線写真あるいは最新の画像法を用いたルーチンの画像検査が、臨床的に意味のある患者のアウトカムの改善に結び付かないという強力なエビデンスを得ている。不必要な画像検査によって、患者は本来避けられたはずの害を受け、更なる不必要な治療を受けることになり、結果的に余計な費用がかかることになる」。

脊椎分野における大きな問題の多くは過剰な画像検査からくるものである。普通の腰痛患者が、無症候性の脊椎の異常を必要もないのに指摘されたことによって、必要のない医師への紹介、保存療法、疼痛治療、および手術といった時間と費用のかかる一連の過程へとつながることが多い。脊椎研究の先駆者、故Alf L.Nachemson博士がかつて述べたように「脊権医療における最大の問題は、医師が全体としての人間ではなくX線所見やMRI所見を治そうすることである」。

ACP臨床ガイドライン委員会のChou博士らは「診断検査の非効率性という問題を解決すれば、患者に及ぼす潜在的な害が最小限に抑えられ、直接的および派生的にかかるコストが減ることにより、医療資源の有用化に大きな効果が出る可能性がある」としている。

価値の向上

この画像検査のガイドラインとそれに付随する解説は、へルスケアの価値の向上(すなわち実質的に医学的利点がある診療法の特定に留まらず、社会的に許容できる費用でそうした診療を実施できる方法の同定)を目指すACPの新しい一連の施策の第一弾となった(0wenseta1.,2011を参照)。

コスト高購の時代において、今後、医療費の価値はより大きくなっていく。医療費は米国経済の健全性をむしばみ続けており、2009年には国内総生産の17.3%程度を消費している。2020年までに米国の年間経済生産高の20%以上を食い潰すと予測される。もし、米国が企業であったら、このままの状態を維持できないであろう。

ACPが腰痛に注目して高価値の医療方針の導入を選択したことは意味深い。価値向上の対象となる魅力的な標的は医療全体に多数存在する。 しかし、腰痛分野には価値の疑わしい支出と診療がはびこっている。

核心を突いている

ACPの新しい方針は、著名な研究者らから強い支持を得た。

University of WashingtonのComparative Effectiveness,Cost and Outcomes Research Centerの所長である放射線科医のJeffrey G. Jarvik博士は「この新しい勧告は適切であり、科学的エビデンスに合致する」 としている。

Jarvik博士は、最近の電子メールで次のように述べている。「Chou博士らは核心を突いていると思う。最新の画像法は適切に使用すれば診断のための重要な情報を提供してくれるが、 広範囲に見境なく検査を行っても役に立たないだけでなく、患者に害を及ぼし費用がかさむ恐れもある」。

ACPの新しい方針の声明では、 医師は画像検査の実施を決定する際にその検査の価値の有無を検討するよう勧告しているが、医療提供者が複雑な費用と効果の方程式を個々の患者別に細かく計算する必要はない。既存のエビデンスに基づくガイドラインに、 画像検査に関するエビデンスが使いやすくまとめられている (表Iを参照)。

Jarvik博士によると 「Chou博士らの勧告は、 基本的に既存のエビデンスに基づくガイドラインに従ったものであり、画像検査の実施は神経脱落症状がある患者または重常な基礎疾患が疑われる患者にとどめるべ
きだとしている」。

価値に注目することは驚きか?

Jarvik博士は、勧告が医学的観点だけでなく経済的観点からも検討されたものであることは驚きではないとしている。「法外な金額になりうる社会的コストを無視して医学的利点にのみ注目する余裕はもはや我々にない。しかし、腰痛患者の画像検査の場合には、単純にアウトカムに基づいて説得力のある主張をすることができると考える」。

言い換えると、これはどちらの観点から見ても好都合な状況である。ルーチンの脊椎画像検査を排除してコストを削減しても、医学的利点は減少しない。むしろ、利点が增すのである。

変化のための処方箋とは?

もし、医師がこの新規勧全面的に採用するなら、さまざまな専門診科において臨床診療を大きく変化させる必要が生じるであろう。過剰な脊椎画像検査は現在も日常的に行われている。

しかし、Jarvik博士は、強力な科学的エビデンスに裏付けられた変化を医師は恐れるべきではないと述べている。

「これらの画像検査に関する勧告を受け入れれば、臨床診療を変化させる必要が生じる。しかし、臨床診療は常に変化し続けるものである」とJarvik博士は指摘する。 そして「医療は動的な分野であり、変化についていけない医師はすぐに時代遅れになる。しかし、変化はしばしば医療活動に価値をもたらさない力、すなわち経済的な圧力、市場からの圧力、不確かな経験などによって引き起こされる。ACPが提唱する変化は、少なくともエビデンスに基づいたものであり、患者のアウトカムを改善し費用を削減するはずである」と付け加えた。

Jarvik博士が述べているように、過剰な画像検査は科学的エビデンス以外のさまざ まな種類の圧力によって促進されている。 主要な促進因子は、腰痛に対する従来の医師の姿勢;画像検査を実施する財政上の誘因(特に画像検査装置を所有する医師の場合);防衛医療(defensive medicine);そして非常に重要なことに、患者の要求などである。

腰痛の原因について、妥当性が証明されていない複数の説、すなわち、腰痛の原因は椎間板、椎間関節、仙腸関節、あるいはその他の特定の脊椎構造にあるという説も、過剰な画像検査の実施に一役買っている。これらの推定される疼痛発生原因を治療するには、画像検査によって解剖学的対象部位を明らかにすることが必要である。

画像検査が減れば本当にコストは削減されるか?

脊椎画像検査の実施率が低下すれば専門医への照会が減り、専門医による診断および治療の費用も減少することは直観的に理解できるが、こうした問題は今後注意深く検討していくことが重要である。

Jarvik博士は「不適切な画像検査の制限は腰痛の侵襲的治療を減らすための万能の方策にはなりそうにないが、プラスの効果はあるはずである」と述べている。「Chou 博士らが指摘しているように、画像検査と治療の間に認められる強い関連、おそらくは因果関係は真実であることを示す合理的エビデンスがある。 患者と医師がひとたび画像所見を知れば、 それを無視するのは難しくなる」。

参考文献:

Chou R et at.,Diagnostic imaging for low back pain:Advice for highvalue health care from the American College of Physicians,Annals of internal Medicine,2011;154:181-9.

Owens DK et al.,High-value,costconscious health care: Concepts for clinicians to
evaluate the benefits,harms,and costs of medical interventions,Annals of Internat
Medicine,2011;154:l74-80.

TheBackLetler26(4):37,42-43,2011

「脊椎分野における大きな問題の多くは、過剰な画像検査からくるものである」

「変化についていけない医師はすぐ'に時代遅れになる」


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by junk_2004jp | 2012-03-09 16:31 | BACKLETTER | Comments(0)
2011年 12月 06日

慢性腰痛によって失われた脳組織の回復は可能か?

慢性腰痛によって失われた脳組織の回復は可能か?

Is It Possible to Regain Brain Tissue Lost to Chronic Back Pain?

慢性疼痛が長期的に脳組織の損失をもたらす可能性は、複数の研究において示されており、慢性疼痛が脳に長期的かつ破壞的影響を及ぼすとする見解がある。この現象を、疼痛が脳を“たたきのめす(batter)”という一風変わった言葉を用いて表現する人もいる。

脳の早期老化?

Vanna Apkarian博士(Northwestern University) らは、2004年に慢性腰痛患者は疼痛のない対照被験者と比較して灰白質が5~11%少ないことを示す研究を発表し、大変評判になった(Apkarian el al.,2004を参照)。

博士らの報告によれば「この減少量は正常な老化による灰白質の減少量の10~20年分に相当する」。

この問題は、オーランドで開催された北米脊椎学会年次総会における疼痛発生部位の進展に関するシンポジウムで再び取り上げられた(Standaerteta1.,2010を参照)。

あるボストンの脊椎外科医はApkarian博士に、慢性疼痛に関連した脳実質の損失は永続的なものかと質問した。

「もし、灰白質の損失と脳機能の再編成が起きるなら、それは神経変性疾患で、しかも可逆性なのか?」

脳の損失の一部は可逆性かもしれない

Apkarian博士の答えは「実際のところそれに対する回答を持ち合わせていない」というものであった。「脳の損失の少なくとも一部は可逆性であることがいくつかの新規研究で示唆されている。また、疼痛が劇的に軽減すると局所的な灰白質の密度が回復することを示した2つの研究がある。したがって、脳の損失の一部は明らかに可逆性である」と博士は説明した。

そして、神経科学者である同博士は「一方で我々は、おそらく複数のメカニズムが存在し、その一部は他のものよりも可逆性が高い可能性があると考えている。しかし実際、これについてはもっと多くの研究が必要である」と付け加えた。

手術前後での股関節痛患者

最近発表されたある研究では、重症の一側性股関節痛を有する患者群において、股関節置換術前後で脳の灰白質の量が調べられた。手術前に股関節痛患者の脳を健康な対照被験者の脳と比較した結果、前者に灰白質の有意な損失が認められた。しかし、股関節置換術から9カ月後には、灰白質の量は股関節痛患者と対照被験者で等しかった(Gwilymetal.,2010を参照)。

しかし、 Current Rheumatotogy Reports誌に掲載された最近の論評は、 Apkarian博士のこの分野の更なる研究が必要だという主張をより強調している。論評は、 この分野のエビデンスの大部分は横断的研究に基づくもので、 そうした研究は解釈が難しいと指摘した。脳にみられる変化が慢性疼痛の発現前に生じていたのか、 発現後に生じたのかは完全には明らかになっていない(Wood,2010を参照)。

急性腰痛患者の縦断的研究

Apkarian博士は、 自身の研究グループでは米国立衛生研究所の助成を受けたプロスペクテイプ研究によってこの問題を検討していると述べた。

「我々は、 募集した急性腰痛患者を数年にわたり追跡調査し、脳のパラメータを用いて (疼痛と脳の形態学的変化の) どちらが最初に生じるかを明らかにしようとしている。 どのパラメータが疾患の予測因子となり、 どのパラメータが疾患の影響を反映するのか? この研究はこれまで2年間行われてきた。最終的には、 脳内で起きる一連の事象について何らかのヒントくらいは得られるだろう」 と博士は付け加えた。

脳の損失が疼痛以外の因子と関連する可能性はあるか?

灰白質の損失の一部は、 疼痛以外の因子に関連する可能性があると指摘する研究者もいる。 うつ病、 不安、 および他の精神疾患といった疼痛と併存する病態の一部が脳組織の破壊を引き起こす可能性がある。

例えば最近の研究で、 線維筋痛症の患者は対照被験者よりも灰白質の量が少ないという結果が得られた。 当然、 灰白質の損失は慢性疼痛の結果だと考えたくなる。 しかし、 精神疾患の存在について調整すると、線維筋痛症の患者と対照被験者との脳実質量の差はみられなくなった。 すなわち、 少なくともこれらの患者では、 脳容積の損失は疼痛に対する直接の反応ではなかった可能性がある (Hsu etal.,2009を参照)。


参考文献:

Apkarian VA et al.,Chronic back pain is associated with decreased prefrontal cortex and thalamic gray matter density,Journal of Neuroscience,2004;24(46):10410-5.

Gwilym SE et al.,Thalamic atrophy associated with painfu1osteoanhritisof the hip is
reversible after arthroplasty:A longitudinal voxel-based morphometric study,Arthritis
and Rheumatism,2010:62(10):2930-40.

Hsu MC et al..No consistent difference in gray matter volume between individuals with
fibromyalgia and age-matched healthy subjects u.hen controlling for affective disor-
der.Pain.2009:143(3):262-7.

Standaert CJ el at..S、mposium:The Evolution of the Pain Generator: Implications for
Practice,presenled at the annual meeting of the North American Spine Society,Orlan-
do,2010:unpublished.

Wood PB. Variations in brain gray matter associated with chronic pain, Current
Rheumatology Reports,2010;12(6):462-9.

TheBackLetter2612):l8.2011
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by junk_2004jp | 2011-12-06 20:15 | BACKLETTER | Comments(0)
2011年 12月 01日

慢性腰痛は腰椎の1ヶ所の「疼痛発生原因」で説明されるか?

Can an Isolated''Pain Generator”in the Lumbar Spine Explain
Chronic Back Pain?

学会は、 その専門の医学分野について、また一般的疾患の診断、治療および予防に関する学会員の能力について、過度に楽観視することが多い。

しかし、最近オーランドで開催された北米脊椎学会の年次総会のシンポジウムでは、小気味良いほどの方向転換がみられた。 このシンポジウムでは、慢性腰痛の診断、治療、および理解は難しいという正直な調査結果が果敢にも発表された。

「The Evolution of the Pain Generator: Implications for Practice(疼痛発生原因探索の革命:臨床診療への関与)」 と題したシンポジウムは、University of WashingtonのChristopher J. Standaert博士が計画し司会を務めた。バネリストは神経科学、遺伝学、心理学、外科学、および理学療法、 リハビリテーションなどの複数の科学分野の専門家であった(Standaertetal.,2010を参照)。

Standaert博士によれば、彼自身とその研究グループのメンバーは、 この分野の科学的エビデンスに対する多様な専門領域からの見解を得たいと考えた。博士らは、腰椎のある1ヵ所の局所的な疼痛発生原因(pain generator) という概念が依然として妥当なものか、あるいはこれは単純化し過ぎたモデルであって、すでに有用性を失っているのかを知りたいと考えた。

Standaert博士は「痛みの原因は我々の技術をもってすればわかると期待している」としている。しかし、そうして得られた答えから慢性腰痛の妥当な説明がつくのか、あるいは慢性腰痛の治療が大きく前進するかについては明らかではない。

シンポジウムは意義深いものであった。 前述の各専門分野の代表者は相互コミュニケーションという点に関しても、明らかな問題を抱えており、そのことを隠そうとはしなかった。彼らには、疼痛研究のための共通言語と統一されたアプローチが欠けていた。しかし、それが現時点でのこの科学分野の実態である。

パネリストらは、特定の疼痛発生原因に起因する慢性腰痛の診断方法や治療方法について、多くの簡単なアドバイスを示したというわけではなかった。この場では、慢性腰痛のほとんどの根本的原因やメカニズムは、科学的研究によってまだ特定されていない、という合意が得られたに過ぎなかった。

シンポジウムに続く討論では、神経科学者であるNorthwestern UniversityのVanna Apkarian博士が「我々は、慢性疼痛についても慢性腰痛についても理解できていない」と認めた。そして「慢性腰痛の病態生理がまだ理解できていない」とした。

Apkarian博士は、慢性疼痛の有効な治療法は明確でないと述べ、「これらの病態に対する科学的裏付けのある治療選択肢はごくわずかしかない」と付け加えた。

しかし最近、脳画像検査や遺伝学に科学的進歩がみられているので、前進の道筋が示されているとも述べた。現在では、先進画像検査によって疼痛を「客観化」し、疼痛の脳における解剖学的・機能的パラメータを調べるという研究方法が可能になっている。

その結果、脳の可塑性、すなわち脳が疼痛に反応してどのように変化するかが次第に明らかになってきた。例えば、今では脳画像検査によって急性腰痛や慢性腰痛を始めとするさまざまな疼痛のサインを識別することが可能である。

「それぞれの臨床的病態に特異的なサインに基づいて、標的治療を開発できるかもしれない」とApkarian博士は述べている。

また、著名な遺伝学研究者であるHarvard University の Michael Costigan博士は、慢性疼痛の新たな治療法の開発において進歩の見られる点、あるいは見られない点について率直な評価を下した。 「経験上、これまで我々は疼痛の病理学的メカニズムの特定および新たな鎮痛薬の開発のいずれにおいても失敗してきたと思う」。

ただし博士は、慢性疼痛の素因となる遺伝要因ならびに遺伝要因と環境要因の相互作用についての理解を深めることにより、脊椎医療は大変革を起こすかもしれないと述べている。

そう遠くない将来、慢性腰痛の特異的な疼痛メカニズムが特定され、それらに対して特異的治療を行われるようになるかもしれない。「我々はいくつかの驚くべき変化を体験するだろう。そうした治療の開発には時間がかかるが、その時は近づいている」とCosligan博士は述べている。

1ヵ所の疼痛発生原因を探す長年の探究

では「疼痛発生原因」とは何か? これは20世紀初めに生まれた概念である。しかし、実際によく使われるようになったのはここ数十年である。この用語は、椎間関節症候群から仙腸骨障害、椎間板に起因する疼痛まで、原因が特定されていない腰痛の説明に使用されることが多い。

シンポジウムの司会者を務めたStandaerl 博士は、開会挨拶で「疼痛発生原因」の定義について次のように論じた。「“疼痛発生原因”があると考えることは、疼痛を誘発する何かがあること、そして、それを剌激することにより常に普段の症状が表れることを確認できるということである。その上で望まれるのは、原因を何らかの方法で遮断、除去、破壊、または鎮静化することである」。

博士は「しかし、患者に痛みを与えても慢性腰痛患者の脳で起きていることが、必ずしも再現されるわけではない。腰痛の誘発は可能かもしれないが、必ずしも患者の疼痛経験全体が再現されるわけではない」と述べた。

「局所的な疼痛発生原因という考え方は非常に単純なモデルであり、日常生活で起きる他のありとあらゆる種類の出来事を無視したものである」と博士は付け加えた。 「もし、金銭上のトラプルがあったり、意地悪な上司がいたり、 有害な仕事環境であったり、弁護士に付きまとわれたり、家族の誰かに疼痛疾患があったら、 どうであろうか? あるいは患者が虐待や外傷、 無視を受けていたら? それに加えて患者がうつ病または薬物乱用者であったら、 どうであろうか?」

「“疼痛発生原因” を取り除くことは可能であるが、 その人の生活が改善されていないように思えることも多い。我々は取り扱っている問題がどのくらい複雑なのか、実際には理解していないのである」 とStandaert博士は述べた。

博士は、慢性腰痛に対する現在のアプローチが時には有効であることを認めている。 しかし、全般的に現代医学は慢性腰痛の治療に対してはそれほど進歩していないと述べている。

博士によると 「今のやり方で本当にこの問題の真相を突き止められるのかと疑問に思っている人々がいる」。
Standaert博士は「治療費や受療率は急増している」 と述べ、 次のように続けた。 「しかし、 機能的な障害を伴う腰痛を報告する人々の数も同様に急増している」(Martin eta1.,2008を参照)。腰痛に対する現在の医学的アプローチが症状や機能的障害を悪化させている可能性がある。

Standaert博士は、遺伝学、脳科学、心理学、 およびその他の専門分野の相互作用により、やがては慢性腰痛に対してより有効性の高いアプローチが可能になるだろうという楽観的な意見を述べた。

Standaert博士の説明によれば「患者選別とは、適切な患者に対して、適切な時期に、適切な治療を行うことである」。現在、患者選別の過程は慢性疼痛の治療にあたる医師にとって大きなフラストレーションの原因になっている。

「しかし、 いずれは特定の疼痛メカニズム、遺伝的脆弱性、 および個人の心理社会的性質に適合した治療を行うことが可能になるだろう」 と博士は断言した。

疼痛メカニズムが明らかになった後

慢性疼痛では、最初の原因となった損傷や疼痛メカニズムが雪だるま式に拡大して、はるかに大きく厄介な問題になるという事実についても、長時間にわたり議論が行われた。そして、狭い範囲の疼痛メカニズムの解明が必ずしも範囲の広い症候群の解消につながるとは限らないことについても論じられた。

シンポジウムに聴衆として参加していた医師の一人は、一部のバネリストは慢性腰痛を狭く捉えすぎていると注意を促した。

その医師は「疼痛を問題にしていると、医師は疼痛以外の多くの問題も治療しているという事実を見失ってしまうことがある」と付け加えた。疼痛以外の多くの問題とは、疾患、活動障害、機能低下、個人的目標を達成できないこと、などである。この医師は「これらすべての問題には、別々のアプローチが必要になると思う」と述べた。

心理学者のAlan Weisser博士は、急性症状と慢性疼痛の治療経験には差があり、後者には疼痛の重ね合わせ(overlay)という問題が付随することを強調した。

Weisser博士は「1回つまずくのと1年間つまずき続けるのは別の問題である」と述べた。「医師は慢性疼痛患者に何が起きているのかを理解する必要がある。そして、長引けば膨れ上がる費用についても理解が必要である」。

多くの腰痛患者では、慢性疼痛に付随してさまざまなネガティブな経験や事象、すなわち身体機能の低下(decondilioning)、不安、うつ病、恐怖回避行動、および自己感の喪失などが認められる。

Weisser博士は「最初の原因となった損傷や疼痛メカニズムの治療にあたらなくても、これら多くの問題に対処する患者を手助けすることは可能である」としている。しかし、そうするには患者の疼痛経験の全体像を理解することが必要である。

Weisser博士は「これらの問題の中には、完全な解決法や低減が可能なものもある」として、「慢性疼痛の感じ方を変える方法は多くある」と指摘している。

Weisser博士は「患者は1、2年間治療を受けた後で“同じ痛みはあるが感じ方は以前と違う”、“以前のような機能への影響はない。痛みによって活動が妨げられるとは感じない”と述べることが多い」としている。

本質的な意見の不一致

前述のようにシンポジウムのパネリストの間には、 本質的な意見の不一致があり、議論が白熱した。

しかし、 最終的にはハッピーエンドとなった。 より良いコミュニケーションと集学的協力関係が必要であるという点で、 バネリストらの意見は一致した。 2時間にわたる討論の結果、 バネリストらは今後も定期的に会合をもち、 共通言語を作成し、 この分野の研究開発について見通しや批判的意見を交換したいと表明した。


「我々いくつかの驚くべき変化を体験するだろう」

「より良いコミュニケーションと協力関係が必要であるという点で、パネリストらの意見は一致した」


参考文献:
Martin BI et at.,Expenditures and health status among adults with back and neck problems, lAMA,2008;299:656-64.

Standaert CJ et al.,Symposium:The Evolution of the Pain Generator:Implications for Practice,presented at the annual meeting of the North American Spine Society, Orlando, 2010;unpublished. TheBackLener26(2):13,20-21,2011
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by junk_2004jp | 2011-12-01 23:01 | BACKLETTER | Comments(0)
2011年 08月 29日

椎間板変性が認められる労働者に対する固定術:話し合いによる意思決定の良い機会か?

Fusion Surgery for Injured Workers:An Opportunity for Shared
Decision-Making?

患者擁護の立場をとるTerry Corbin氏は、Spine誌のウエプサイトにあるSpine Columnのプログの論評において、画像検査で変性性変化が認められる慢性腰痛の労災補償請求患者では、固定術を含めた治療選択肢を評価する上で話し合いによる意思決定の過程がおそらく最良の方法であると提案している (Corbin,2010を参照)。

Cochrane Collaboration Back Review Groupの消費者代表メンバーであるCorbin氏によると 「椎間板変性疾患を有する患者の腰痛に対する手術の適応については意見の対立が激しくなっており、こうした症例は話し合いによる意思決定の最適の適応となる」。

博士は「患者の選好、価値観、およびリスク許容度を考慮して治療を選択すべきである」と付け加えた。

Corbin氏は最近の電話インタビユーで、労災補償請求患者は慢性腰痛の外科治療を取り巻くすべての不確実性を認識する必要があると語った。医師は固定術による「最良の筋書き」を患者に説明するだけで済ませてはならないと博士は強調した。

「患者に対して臨床的にかなり有益であるという保証を与えるべきではない」とCorbin氏は強調した。それは科学的エビデンスの示すところとは異なる。

「患者は、疼痛と活動障害が脊椎固定術によって改善するどころか悪化する可能性もあること、また、脊椎固定術で労災補償を請求しない患者と同様の改善が得られる可能性が低いことを理解すべきである」と博士は述べた。

診断の不確実性も 一因である

固定術の適応候補患者は、腰痛の原因を腰椎の特定の異常と安易に結びつけられない点についても理解する必要がある。

腰痛の誘因となりうる解剖学的構造は多数あり、疼痛発生源を明確に特定できることが証明された診断検査はない。

「慢性腰痛は依然として謎の多い疾患である」と産業医のTrang Nguyen博士とDavid Randolph博士は最近の電子メールで強調している。「一連の治療によって意義のある長期的な治療効果が得られない場合、慢性腰痛が必ずしも身体的疾患によるわけではないことを疑うべきである」。

多様な心理的、社会的、経済的間題が関与している可能性があり、固定術の適応候補患者はその点を認識すべきである。

「患者に何を説明するか?」

Steven Atlas博士は最近の電子メールで、話し合いによる意思決定の過程において正確な情報提供が難しい臨床的判断をする患者の役に立つという点に同意した。

「画像検査で変性性変化が認められる慢性腰痛の労災補償請求患者には、何を説明すべきか?」とAtlas博士は疑問を投げかける。

「私なら、固定術と保存療法のリスクとぺネフィットについて患者と話し合い、固定術を受けても治癒する可能性が低いことを説明する。疼痛は軽減するかもしれないが、以前と同じ仕事に戻れる可能性は低い。身体的負担の重い仕事の場合には特に低くなる」とAtlas博士は述べた。

「麻薬を慢性的に使用している患者に対しては、手術によって疼痛が軽減されても麻薬を完全に中止できるかどうかは不明であると説明する。また理学療法、疼痛管理、および精神的支援を取り入れた積極的なリハビリテーションが手術と同じくらい有効と思われることも説明する」。

「最後に、短期間の合併症、疼痛の悪化、および初期に軽快が得られた後の進行性の症状など、手術には潜在的リスクがあることを説明する」とAtlas博士は述べた。そして博士は患者に、保存療法ならこれらのリスクに遭遇することはないだろうと説明する。

「最終的には、私は患者に脊椎固定術を受けることを思いとどまらせ、経過観察の回を重ね、 時間をかけて現実的な話し合いをしようと試みる」。

Alias博士は 「最終的に私の目指すところは、 それほど良い選択肢がない中で患者のインフォームドチョイスを手助けすることである。 これは患者と医師との話し合いによる意思決定の核心である」。

私の経験上、 患者は十分な情報を与えられれば脊椎固定術を希望しない。 こうした理由で私は話し合いによる意思決定の過程を支持する」。

「この高額な費用のかかる手術を、 有益であると証明されるまでは中止すべきだと主張する人もいるかもしれないが、 米国では現在そのような方法を取っていない。 しかし、 脊椎固定術の実施率が低下しないようであれば、 その時ははっきり異議を唱えるべきであろう」 とAtlas博士は述べている。


参考文献:

Corbin TP,Point of View,clinical outcomes after posterolateral lumbar fusion in work-
ers' compensation patients:A case-control study,Spine,2010;35(19):l820.

The BackLetter 25(11):129,2010
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by junk_2004jp | 2011-08-29 20:34 | BACKLETTER | Comments(0)
2011年 08月 27日

労災補償請求患者における脊推固定術の良くない結果

Dismal Results for Spinal Fusion Among Patients With Workers' Compensation Claims

脊椎治療に携わる医師は、 労災補償請求患者に脊椎固定術を勧めないようにすべきであろうか? そしてさらに重要なことには、 患者はこの治療選択肢を勧められたら必ず断るべきであろうか?

労災補償患者に対する固定術に関する一連の研究 (5ぺージの表Iを参照) の結果を知れば、こうした疑問が生じるのは当然かもしれない。

最近発表されたOhio州の対照コホート研究によると、 固定術は慢性腰痛とそれに関連する活動障害を軽減するが、 同様に悪化もさせるようである。

Trang Nguyen博士らは、 脊椎固定術を受けた男女の労災補償請求患者725例と保存療法を受けた同数の比較対照群についてレトロスペクテイブな調査を行った (Nguyen eta1.,2010を参照)。

その結果、脊椎固定術を受けた被験者で2年間の追跡調査期間内に仕事を再開した患者は26%にとどまることが明らかになった。 手術を受けた患者の3分の1以上が術後合併症を経験し、27%が2回目の手術を受けていた。

脊椎固定術を受けた患者の4分の3以上が手術後もオピオイド使用を継続していた。 そして、 オピオイドの平均1日用量は手術後に41%も増加していた。

Nguyen博士と共著者のDavid Randolph博士は最近の電子メールで、 オピオイド使用量の増加は気がかりだと述べている。使用量の増加は機能的な改善の促進にはつながらないようであった。

博士らは「オピオイドの使用が仕事の再開に影響を与えるという我々の印象は変わらない」としている。多変量モデルにおいて、オピオイドの総投与量は、手術を受けた被験者の合併症、再手術、手術前の合計欠勤日数、および法定代理人の登場への有意な予測因子であるとともに、仕事を再開しないことの有意な予測因子でもあった。

2009年にWashington州で行われた研究では、脊椎固定術を受けた労災補償請求患者の死亡原因の第1位はオピオイド過量投与であり、気がかりとされる鎮痛薬に関連する死亡率は約1%であった(Juratli et at., 2009を参照)。またOhio州で行われた研究では、試験期間中の死亡例数は対照群11例に対して固定術群では17例であった。

Nguyen博士とRandolph博士によると「これらの被験者の死亡原因については、予備的調査の段階であるが、大部分の死亡は薬剤に関連することが明らかになった」。

それでは、この研究の総合的な結論は何か?「椎間板変性、椎間板へルニア、あるいは神経根障害の診断に対する腰椎固定術は、労災補償請求者では活動障害、オピオイドの使用、長期欠勤、および仕事再開困難の有意な増加と関連する」とNguyen博士らは結論づけた(NguyenetaI.,2010を参照)。

Nguyen博士とRandolph博士は「椎間板変性疾患と椎間板へルニアに対するこの手術のアウトカムから考えて、これは治療選択肢として適切でない」としている。

危険な賭けでしかない?

労災補償患者においては、この種の手術は危険な賭けでしかないように思われる。 Kentucky州で最近行われた症例対照研究では、受傷し、その治療に固定術を選択した労働者の大多数で、この手術の有意な臨床的有用性は認められなかった。

Leah Carreon博士らによると、固定術後に活動障書(Oswestry活動障害度で評価) に臨床的に意味のある改善がみられたのは労災補償請求患者の19%のみであった。身体的状態(sF-36質問票で評価)に臨床的に意味のある改善がみられた患者はl6%のみであった。

固定術を選択した労災補償請求患者は、研究開始時も終了時も平均疼痛スコアが気がかりなほど高かった(Car,eonelal.,2010 を参照)。

「外科医は労災補償患者と腰椎固定術の有効性を話し合う場合に慎重を期すべきであり、術前の健康関連の生活の質が低い患者ではなおさらそうすべきである。労災補償患者には腰椎固定術の前後で心理・社会的、職業上およびリハビリテーション面での追加的な支援が必要と考えられる」とCarreon博士らは述べている(Carreonetal., 2010を参照)。

更なる研究の必要性

残念ながら、労災補償請求患者に対する固定術に関する今日までのすべての研究では、多様な診断の患者をひとまとめにしていた。そのため、このような集団では単一の適応症に対して脊椎固定術が有効か否かは不明である。

Steven Atlas博士はSpine誌の“The Spine Column” というプログでCarToon博士らの研究を論評し、労災補償請求患者の手術および保存療法のアウトカムについて更なる研究が必要であるとしている (Atlas,2010 を参照)。

Massachusetts General HospitalおよびHar- vard Medical Schoolのプライマリケア医であるAtlas博士は、 Maine Lumbar Spine StudyおよびSpine Patient Outcomes Research Trialの被験者を含む労災補償請求患者において脊椎手術のアウトカムを検討する複数の研究を実施した(Atlas et at.,2000,2006, 2010を参照)。

Alias博士によると「労災補償患者は固定術のアウトカムが劣っていたという観察結果から、その後の労災補償患者の治療方法が決まるわけではない。…これらの研究や他の研究が示しているのは、比較的均質な基礎的条件を有する労災補償患者におけるさまざまな治療のアウトカムの比較が急務だということである。労災補償患者における別な治療法との比較を行う無作為比較研究が必要である」。

Nguyen博士らも無作為比較研究(RCT) の必要性を主張しており、Alias博士と同様、関連する可能性のあるすべての影響を考慮できるのはRCTのみであると指摘している。

Nguyen博士とRandolph博士は両者とも産業医であり、労災補償システムの中で無作為比較研究を行うことは可能であるが費用がかかるであろうと述べている。

そして博士らは「大規模RCTの実施は気の遠くなる仕事である」として、次のように述べている。「これはアウトカムを客観的に評価 できるような大規模多施設共同研究にすべきである。また、長期追跡調査を行って脊椎固定術の長期的影響を評価すべきである」。

よりよい研究が行われるまでの慎重なアプローチ

残念ながら労災補償システムは規制や管理の考え方が州によって異なることから、そのような研究を実施する上での障壁となる。無作為比較研究が完了するにはおそらく何年もかかる。それまでの間、何をすべきであろうか?

「仕事に関連した脊椎の病態があり、脊椎手術を検討中の患者については、今のところ慎重論が唱えられている」とAtlas博士は最近の電子メールで述べた。

「労働年齢の患者に対する手術を支持する最良のデ一夕が得られているのは、腰椎椎間板へルニアに対する顕微鏡視下椎間板切除術である。 しかし、利用可能なエビデンスから、そのような労災補償請求患者における手術の効果は良くても限定的であることが示されている」。

「慢性腰痛に対する脊椎固定術を検討中で労災請求を行っていない患者については、利用可能なエビデンスから手術の効果はさほど高くはなく、積極的なリハビリテーションと変わらないことが明らかである」と博士は指摘した。

したがって、画像検査で一般的な変性性変化が認められる慢性腰痛患者は、治療法の選択に慎重になるべきである。

Alias博士によれば「労災補償を請求している同様の患者は、手術の役割を検討する上でより一層慎重になるべきである」。

脊椎固定術はめったに行われない手術であるべきか?

整形外科医のStanley Bigos博士は最近の電話インタビユーで、労災補償患者に対しては脊椎固定術はめったに行われない手術であるべきだと強調した。

Bigos博士は、 この患者集団では特定の病態に対する脊椎固定術が決まった効果を発揮してきたとは言えないと述べている。

博士は「この手術には適応の見極めが必要である」 としている。この手術によって悲惨なアウトカムがもたらされることもある

そして「脊椎固定術はほとんどの労災補償請求患者には適さない。なぜなら、治療成功の確率が低く合併症と有害事象の発現率が高いためである」と付け加えた。

博士は、脊椎固定術は明らかに脊椎の不安定性のエビデンスを有するごく少数の患者集団に限定して実施すべきだと考えている (CalTageeetal.,2006を参照)。

また、そのような患者集団であっても、慢性腰痛のある労災補償請求患者はしばしば雇用問題や心理・社会的問題に直面しており、それによって治療の失敗や長期活動障害のリスクが上昇する可能性があることから、固定術を実施するかどうかは慎重に検討すべきである。さらに労災補償をめぐる争い自体が治療成績を悪化させる可能性もある。


参考文献:

Atlas SJ,Point of View,Clinical outcomes after posterolateral lumbar fusion in workers'
compensation patients:A case-control study, Spine,2010;35(19):1818-9.

Atlas SJ et al.,Long-term disability and return to work among patients who have a herniated lumbar disc: The effect of disability compensation,JBoneJoinlSurg Am,2000;
82(l):4-l5.

Atlas SJ et al.,The impact of disability compensationonlong-term treatment outcomes
of patients with sciatica due toalumbardisc herniation,Spine,2006;31(26):3061-9.

Atlas SJ et al.,The impact of workers'compensationonoutcomesofsurgicaland non-
operative therapy for patients with a lumbar disc herniation: SPORT, Spine, 2010;
35(1):89-97.

CalTageeEJet al.,A gold standard evaluation of the“discogenic”diagnosis as determined by provocative discography,S/,me,2006;31(18):2115-23.

Carreon L et al.,Clinical outcomes after posteroIateraIlumbar fusion in workers' com-
pensation patients: A case-control study,Sprue,2010;35(l9):l812-7.

Juratli SM et al.,Mortality after lumbar fusion surgery,Spine,2009;34(7):740-7.

Nguyen TH et al.,Long-term outcomes of lumbar fusion among workers'compensation
subjects,Spine,2010[Epub ahead of print];doi:10.1097/BRS.0b0l3e3l8lccc220.

TheBackLetter25(11):121,127-130,2010.■
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by junk_2004jp | 2011-08-27 21:39 | BACKLETTER | Comments(2)
2011年 06月 02日

椎間板に起因する疼痛に関する懐疑論

Skepticism About Discogenic Pain

脊椎医療の従来からの2つの共通認識、すなわち、(l)腰痛の主な原因は椎間板変性である; (2)疼痛は固定術または椎間板置換術により効果的に軽減できる、 という考えに対して疑問が深まりつつあるようである。

懐疑論が勢いを増している理由は明確ではないが、この状況は、軸性腰痛(すなわち神経根性疼痛がない腰痛)に対する脊椎手術の強引すぎる売り込みや、それらの手術を強く勧めることで高い報酬を得ている脊椎分野のオピニオンリーダーにおける利益相反に対する反発を反映していると考えられる。

さらに、神経根性腰痛に対する手術の利点については合理的エビデンスがあるが、軸性腰痛にはないという統一見解が確立されつつあるようである。

腰痛の原因は依然として謎であるが、おそらく脊椎の可動部分から脳に至る複雑な問題がかかわっている。そして、軸性症状に対する手術を支持するエビデンスについては、いまだに意見がわかれたままである。

最近、Joumal of Bone and JointSurgerに脊椎手術、すなわち神経根性腰痛に対する手術〔例えば、椎間板手術および脊柱管狭窄(症)の手術〕 と軸性腰痛に対する手術(例えば、固定術または椎間板置換術)の両方を評価した興味深い議論の詳細が発表された。シンポジウムの詳細とその結果を報告したのはEdward N. Hanley Jr.博士らである。

そして、シンポジウムの聴衆は米国整形外科学会(フロリダ州ボニ一夕スプリングス、2009年6月)に参加した整形外科医らであった。

神経根性疼痛と神経性跛行

シンポジウムの座長は、最初に神経根性障害と神経性跛行の手術に関するエビデンスについての賛否両論を紹介した。 SPORT(Spine Patient Outcomes Research Trials)から得られた、有痛性椎間板へルニア、脊柱管狭窄(症) (訳者注:国際分類でいうdegenerative type、 日本では変形性脊椎症)および変性性すべり症に対する除圧術の効果に関するエビデンスも紹介された。

出席した外科医の多くがこのエビデンスに強い印象を受けた。大多数の外科医は、腰椎椎間板へルニア(57%が有効、37%がおそらく有効、7%が無効と回答)、腰椎脊柱管狭窄(66%が有効、29%がおそらく有効、5%が無効と回答)、および変性性すべり症(58%が有効、30%がおそらく有効、12%が無効と回答) に対し手術が有効であるというデータに納得した。

しかし、56%の整形外科医は、SPORT の観察研究で得られたデータに無作為比較研究(RCT)の結果ほど重要な意味はないと考えていた。

腰痛に対する手術

座長は、椎間板変性のある軸性腰痛に対する外科治療のエピデンスについての賛否両論も紹介した。エビデンスとされたのは、軸性腰痛に対する腰椎固定術と腰椎椎間板置換に関するさまざまなRCT であった。

出席した外科医らは、この分野のエビデンスについて非常に懐疑的であった。

Hanley博士らによると「椎間板変性が腰痛の主な原因だと考える医師は23%しかいなかった」(Hanley et al.,2010を参照)。

次にシンポジウムの座長が出席した外科医に対して重大な質問をした。自分に1椎間の変性性変化からくる慢性腰痛があったら、どの治療コースを受けたいか?

その回答は衝撃的であった。すなわち、61%が保存療法を受けると回答し、
38% がまったく治療を受けないと回答したのである。


Hanley博士らによると「100名以上の回答者のうち、固定術を受けるだろうと回答したのは1名のみで、さらに椎間板置換術を受ける気があると認めたもの1 名であった」。

参考文献:

Hanley EN et al.,AOA Symposium.Debating the value of spine surgery,Journal of Bone and Joint Surgery(Am.),2010;92:1293-l304.

TheBackLetter25(8):85,94,2010. ■


________________________________


(加茂)

神経根性疼痛の概念も間違っているのでいずれそれに気付くことがあるかもしれない。そうすると、脊椎外科医はおそらく失職するだろう。

脊椎外科医は脊椎の悪性腫瘍、感染症、骨折、側わんなど、それに脊髄の圧迫による麻痺、極めてまれな馬尾症候群が手術の対象となる。

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by junk_2004jp | 2011-06-02 13:55 | BACKLETTER | Comments(0)
2010年 12月 04日

受賞研究は椎間板変性の 「損傷モデル」 に異議を唱えるものである

Award-Winning Study Questions the"Injury Model"Of
Disc Degeneration

(THE BACKLETTER No.62)

椎間板変性の「損傷モデル」は椎間板の適応能力を無視したものである

Tapio Videman博士らの受賞研究は、近代的な職場環境と脊椎医学での「聖域(sacred cows)」の一つ、反復的な身体的負荷が椎間板に本質的ダメージを与えるという認識に異議を唱えるものである。

これは、この研究グループによる一連の影響力のある研究の一つであり、これらの研究は従来の椎間板変性の「損傷モデル」をむしばみつつある(破壊しつつあるという人もいる)。

Videman博士によると「このモデルは20 世紀後半に普及し今も広く支持されているが、筋骨格系の適応能力を無視したものである」。

Videman博士らの新規研究は、椎間板変性に対する身体的負荷の影響を調べるために効果的な研究デザインを用いている。 この研究は男性双生児のぺアを研究対象としたもので、一方の体重が相手よりもかなり重い〔平均約30ポンド(約l3.6kg)〕双生児について調べている。そのため、体重が重い方の双生児の腰椎椎間板は兄弟の椎間板よりもはるかに大きな生体力学的負荷を何年間も受けていたことになる。

研究結果は従来からの通念に異議を唱えるものであった。研究では、余分な身体的負荷が害を及ぼすというエビデンスは見いだされず、むしろ腰椎椎間板に有益な影響を与えたように思われた。

Videman博士は「我々の知見から、累積的かつ反復的な負荷が余分にかかった分、椎間板変性がわずかに遅れるというエビデンスが得られた」と述べ、「反復的負荷は適度であれば椎間板にとって必ずしも悪いものではない」と結論づけた。

この研究は、仕事や運動競技の際に脊椎により重い身体的負荷をかけてみたい、ただし安全に、と考える人々に対して肯定的なメッセージを送る。

しかし、Videman博士は次のような限定条件をつけている。「より重い負荷がかかった場合の椎間板の適応力を考慮しなければならない」。

椎間板は言うまでもなくヒトの身体で最大の無血管構造であり、並はずれて代謝が遅い。その結果、負荷の增大に対する椎間板の適応は徐々に行われる必要がある。しかしこれは、筋骨格系のほぼすべての構造にあてはまる(Videman,2009;Videman et al.,2009を参照)。

2つの脊椎学会における対照的な受け止め方

Videman博士は、最近数カ月間に2つの主要な脊椎学会で研究を発表したが、それら学会の受け止め方は非常に異なっていた。サンフランシスコで開催された北米脊椎学会(NASS)の年次総会では、この研究は医学およびインターペンション科学の分野の「2009年優秀論文賞」を受賞した。 研究は称資され、革新的なデザインとこれまでの常識を打破する結果に賛辞が集まった。

辛辣な批評

しかし、2009年5月にマイアミで開催された国際腰椎研究学会の年次総会では、研究に対する受け止め方はそれほど好意的ではなかった。一部の研究者は辛辣に批判した。

そうした研究者は、身体的負荷や外傷が椎間板変性に与える影響について、自身の仮説を支持する主張を行った。 主たる批判は、 体重増加に伴って発生する漸増性負荷と椎間板の強化は作業関連的な罹患の場合には認められないのではないかというもののようであった。 何人かの研究者は、 職場で求められる日々の身体活動がこの適応過程の妨げとなり、損傷や進行性の慢性疼痛につながる可能性があるという印象を受けていた(4ぺージの記事「椎間板変性の研究は神経を逆なでする」を参照)。

しかし、過去15年間に行われた研究(特にフィンランドにおける双生児研究)からは、仕事による身体的負荷が椎間板変性に与える影響はごく小さいことが示唆されており、そのような種類の外傷性の損傷が実際にどのくらいの頻度で発生するのか疑問が発せられている(次の記事「椎間板変性のリスクファク夕ー: 「従来の容疑者」の一斉検挙」を参照)。

相反するメッセージ

サンフランシスコのNASS年次総会で、Videman博士は、椎間板に対する身体的負荷の影響に関心をもつようになったのは労働衛生分野とスポーツ医学分野から相反するメッセージが発表されたことがきっかけであったと説明した。

「私はフィンランドで労働衛生分野の仕事をしたが、そこでは一般に身体的負荷は椎間板と脊椎に害を及ぼすと考えられていた」とVideman博士は述べた。

さらに「その後10年間、私はスポーツ医学の分野で仕事をしたが、そこでは漸増する身体的負荷は筋骨格系全体にとって有益と考えられていた」と続けた。

44組の双生児を対象にした研究

この矛盾を解決するため、Videman博士らは体重および腰椎への身体的負荷レベルが一致しない健康な一卵性双生児の男性44 組を対象に研究を行った。前述のように双生児の兄弟間の平均体重差は約30ポンドであった。

この種の双生児研究の利点は、さまざまな潜在的交絡因子のみならず遺伝的影響もコントロールできることである。

研究対象とする双生児は、フィンランドの全住民を代表するフィンランド双生児コホートから選択した。すべての双生児のぺアについて、教育、社会的階層、喫煙、職業上の負荷、余暇の身体活動、疼痛の既往、およびその他の因子に関するデ一夕を含む総合的な情報を入手した。

Videman博士らは、画像上の椎間板の信号強度の定量的評価、椎間板の信号強度の変動、椎間板の高さ、およびL1-L4に隣接している脳脊髓液の信号強度など、妥当性が証明された椎間板変性の評価尺度を用いて、被験者の椎間板に対する負荷の影響を追跡した(詳細はVidemanetal.,2009を参照)。

また、双生児の腰椎に対する身体的負荷は同一でないことを確認するため、体重の重い双生児の腰椎の方が骨密度が高ければ負荷は同一でないことが確認されるという前提のもとに、椎骨の骨密度の評価も実施した。

興味深い結果

結果は興味深いパターンを示した。双生児のぺアの身体的負荷は確かに同一ではなかった。体重が重いことは腰椎の骨密度が6.2%高いことに関連した。

椎間板の信号強度の結果も同様のパターンを示した。最近発表された研究によると「椎間板の信号強度の変動は体重が重い方の一卵性双生児で5.4%大きかった(良好であった)(p=0.005)」。

また、体重が重い方の双生児では椎間板の高さが高く (2.6%高い)、調整した椎間板の信号強度も高かった(2.9%高い)。しかし、これらの差は統計学的に有意ではなかった。

従来の考え方の矛盾

Videman博士らによれば、「生活様式は同様であるのに体重にある程度の差がみられる一卵性双生児の男性の場合、体重の重い方が椎間板変性の評価尺度が悪化するということはなかった。実際に、調べた程度の体重差の範囲内では、体重が重ければL1ーL4の椎間板にわずかながら有益な影響を及ぼす可能性がある」。

これらの結果から、「より大きな生体力学的力は、生理的範囲内であっても椎間板に対し有害である、とする一般的な見解とは矛盾するエビデンスが得られた」とvideman博士らは発表研究の中で説明した。


Videman博士らは発表研究の中で説明した。

スポーツ医学の見解が正しいように思われる

それでは、Videman博士が職業医学分野とスポーツ医学分野から得た相反するメッセージのどちらが正しいのであろうか?

スポーツ医学の立場からの見解が正しいようである。Videman博士はNASS学会で「重要なことは、負荷への適応に関して椎間板が筋骨格系における例外的存在ではないということである」 と述べている。

言いかえれば、関節、骨、筋肉、腱、および靭帯と同様に椎間板にとっても、身体的負荷の増大および段階的適応は有益である。

「この研究は予防的介入と治療的介入にとって、また患者教育にとって意味を有する」 とVideman博士は結論づけた。

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by junk_2004jp | 2010-12-04 23:31 | BACKLETTER | Comments(1)
2010年 03月 12日

迫りくる放射線危機

A Looming Radiation Crisis?  (No.59 2010 January)

米国における電離放射線被曝に関する新規報告書は、脊椎の画像検査、特にCTスキャン、X線、核医学検査を慎重かつ責任を持って使用することの重要性を強調している。そのことが生命を救う可能性がある。

医療界全体に衝撃を与えた米国放射線防護測定審譲会(National Council on Radiation Protection and
Measurements:NCRP) の新規報告書によると、2006年には米国民の医療処置による電離放射線被曝量は、1980年代初めの被曝量の7倍に達した(NCRP,2009を参照)。

報告書を作成したNCRP委員会の委員長であるKenneth R.Kase博士によると「被曝量の增加はCTおよび核医学検査の利用増加が主な原因であった」。「これら2つの画像法による被曝は、米国民の全被曝の36% および医療被曝の75%を占める」とKase博士はNCRPウェプサイトで発表された声明で述べた。

1980年代初め、医療被曝は米国における電離放射線への全被曝の約15%を占めていた。NCRPによると2006年にはそれらが48%を占めた。

この報告書に刺激され、画像法および核医学に関心のある放射線学会および他の専門学会が立て続けにプレスリリースを発表した。それらの報告書は、大部分の画像検査法には重要な利点があることを極めて正確に指摘している。

「医用画像の途方もなく大きな否定しがたい利点について熟考することもなく、米国民に対するリスクの増大としてのみ報告書を解釈しないようにすることが肝要である」 と、米国放射線学会(American Col_ lege of Radiology:ACR)Board of Chancellorsの委員長であるJamesH.Thrall博士は述べた。「患者は、利用可能なすべての事実および医師との話し合いに基づいて、画像検査に関するこれらのリスク/ぺネフィットを判断しなければならない」(AcR.2009 を参照)。

しかし、脊椎医療および医療全体において、少ないけれども相当数の画像スキャンが医学的に必要ではない可能性があるということも事実である。被曝に関連するリスクを考えると、不適切な画像検査の割合を抑えることが不可欠である。

New England Jounal of Medicineで発表された2007年の研究は、CTスキャンに関連する放射線被曝のみでも、米国のすべての癌の最大2%の原因となっている可能性があると結論づけた。したがって、これは制限を加えることによって生命を救える可能性のある分野である (Brenner and Hall, 2007を参照)。

米国では少なくとも政府が助成する医療保険制度においては、近年、画像検査の実施件数とその費用は、医師が指示した他のほぼすべての処置よりも急速に增加した。 2000年から2006年にかけて、画像検査のためのMedicare支出は36億ドルから76億ドルにまで増加し、1年あたり平均17%の増加であった(Iglehart JK,2009を参照)。

画像検査に関連した市場は急速に拡大し、特に医師が所有する院内画像検査の利用は目覚ましく增加した。

Medicare記録によると、1998年から2005 年までに医師が自分の診療所で行うよう指示した(self-referred)院内CT、MRI、および核医学検査の件数は、すべての状況で実施された同様の検査の3倍の速度で増加したとACRは報告している。いくつかの研究は、これらの院内画像検査の半数は医学的に必要ではない可能性があると示唆している (ACR,2009を参照)。したがって、患者の福祉を危険にさらすことなく、抑制できる余地が十分にある。

この増大する危機に対して、単なる抑制を超えた種々の解決法が考えられる。以下に引用したACRの声明は、被曝の増加へと向かう医療および社会の動向に対抗するためのさまざまな戦略的選択肢について述べている。医療目的の放射線量に関する2007 年のACRの公式報告書では、総合的な医療被曝の削減を目的とした33項日の具体的勧告を提示している (ACR,2007を参照)。

しかしおそらく、脊椎医療における最善の方法は科学的エビデンスに注目し、特に画像検査の使用の節減を奨励する、エビデンスに基づく責明なアルゴリズムに留意することであろう。

画像検査のためのMedicare 支出は2000年から2006年にかけて36億ドルから76億ドルにまで増加し、1年あたり平均17%の増加であった。


(加茂)そもそも殆どの痛み・しびれは脊椎医療ではないんだよねemoticon-0124-worried.gif。筋肉医療なんだ。それを勘違いしている。

「脊椎の悪性腫瘍、感染症、骨折、リウマチ」に伴う痛み以外は脊椎は無関係。

かゆみは脊椎医療ではないだろ。
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by junk_2004jp | 2010-03-12 21:05 | BACKLETTER | Comments(1)