2011年 08月 27日
Dismal Results for Spinal Fusion Among Patients With Workers' Compensation Claims 脊椎治療に携わる医師は、 労災補償請求患者に脊椎固定術を勧めないようにすべきであろうか? そしてさらに重要なことには、 患者はこの治療選択肢を勧められたら必ず断るべきであろうか? 労災補償患者に対する固定術に関する一連の研究 (5ぺージの表Iを参照) の結果を知れば、こうした疑問が生じるのは当然かもしれない。 最近発表されたOhio州の対照コホート研究によると、 固定術は慢性腰痛とそれに関連する活動障害を軽減するが、 同様に悪化もさせるようである。 Trang Nguyen博士らは、 脊椎固定術を受けた男女の労災補償請求患者725例と保存療法を受けた同数の比較対照群についてレトロスペクテイブな調査を行った (Nguyen eta1.,2010を参照)。 その結果、脊椎固定術を受けた被験者で2年間の追跡調査期間内に仕事を再開した患者は26%にとどまることが明らかになった。 手術を受けた患者の3分の1以上が術後合併症を経験し、27%が2回目の手術を受けていた。 脊椎固定術を受けた患者の4分の3以上が手術後もオピオイド使用を継続していた。 そして、 オピオイドの平均1日用量は手術後に41%も増加していた。 Nguyen博士と共著者のDavid Randolph博士は最近の電子メールで、 オピオイド使用量の増加は気がかりだと述べている。使用量の増加は機能的な改善の促進にはつながらないようであった。 博士らは「オピオイドの使用が仕事の再開に影響を与えるという我々の印象は変わらない」としている。多変量モデルにおいて、オピオイドの総投与量は、手術を受けた被験者の合併症、再手術、手術前の合計欠勤日数、および法定代理人の登場への有意な予測因子であるとともに、仕事を再開しないことの有意な予測因子でもあった。 2009年にWashington州で行われた研究では、脊椎固定術を受けた労災補償請求患者の死亡原因の第1位はオピオイド過量投与であり、気がかりとされる鎮痛薬に関連する死亡率は約1%であった(Juratli et at., 2009を参照)。またOhio州で行われた研究では、試験期間中の死亡例数は対照群11例に対して固定術群では17例であった。 Nguyen博士とRandolph博士によると「これらの被験者の死亡原因については、予備的調査の段階であるが、大部分の死亡は薬剤に関連することが明らかになった」。 それでは、この研究の総合的な結論は何か?「椎間板変性、椎間板へルニア、あるいは神経根障害の診断に対する腰椎固定術は、労災補償請求者では活動障害、オピオイドの使用、長期欠勤、および仕事再開困難の有意な増加と関連する」とNguyen博士らは結論づけた(NguyenetaI.,2010を参照)。 Nguyen博士とRandolph博士は「椎間板変性疾患と椎間板へルニアに対するこの手術のアウトカムから考えて、これは治療選択肢として適切でない」としている。 危険な賭けでしかない? 労災補償患者においては、この種の手術は危険な賭けでしかないように思われる。 Kentucky州で最近行われた症例対照研究では、受傷し、その治療に固定術を選択した労働者の大多数で、この手術の有意な臨床的有用性は認められなかった。 Leah Carreon博士らによると、固定術後に活動障書(Oswestry活動障害度で評価) に臨床的に意味のある改善がみられたのは労災補償請求患者の19%のみであった。身体的状態(sF-36質問票で評価)に臨床的に意味のある改善がみられた患者はl6%のみであった。 固定術を選択した労災補償請求患者は、研究開始時も終了時も平均疼痛スコアが気がかりなほど高かった(Car,eonelal.,2010 を参照)。 「外科医は労災補償患者と腰椎固定術の有効性を話し合う場合に慎重を期すべきであり、術前の健康関連の生活の質が低い患者ではなおさらそうすべきである。労災補償患者には腰椎固定術の前後で心理・社会的、職業上およびリハビリテーション面での追加的な支援が必要と考えられる」とCarreon博士らは述べている(Carreonetal., 2010を参照)。 更なる研究の必要性 残念ながら、労災補償請求患者に対する固定術に関する今日までのすべての研究では、多様な診断の患者をひとまとめにしていた。そのため、このような集団では単一の適応症に対して脊椎固定術が有効か否かは不明である。 Steven Atlas博士はSpine誌の“The Spine Column” というプログでCarToon博士らの研究を論評し、労災補償請求患者の手術および保存療法のアウトカムについて更なる研究が必要であるとしている (Atlas,2010 を参照)。 Massachusetts General HospitalおよびHar- vard Medical Schoolのプライマリケア医であるAtlas博士は、 Maine Lumbar Spine StudyおよびSpine Patient Outcomes Research Trialの被験者を含む労災補償請求患者において脊椎手術のアウトカムを検討する複数の研究を実施した(Atlas et at.,2000,2006, 2010を参照)。 Alias博士によると「労災補償患者は固定術のアウトカムが劣っていたという観察結果から、その後の労災補償患者の治療方法が決まるわけではない。…これらの研究や他の研究が示しているのは、比較的均質な基礎的条件を有する労災補償患者におけるさまざまな治療のアウトカムの比較が急務だということである。労災補償患者における別な治療法との比較を行う無作為比較研究が必要である」。 Nguyen博士らも無作為比較研究(RCT) の必要性を主張しており、Alias博士と同様、関連する可能性のあるすべての影響を考慮できるのはRCTのみであると指摘している。 Nguyen博士とRandolph博士は両者とも産業医であり、労災補償システムの中で無作為比較研究を行うことは可能であるが費用がかかるであろうと述べている。 そして博士らは「大規模RCTの実施は気の遠くなる仕事である」として、次のように述べている。「これはアウトカムを客観的に評価 できるような大規模多施設共同研究にすべきである。また、長期追跡調査を行って脊椎固定術の長期的影響を評価すべきである」。 よりよい研究が行われるまでの慎重なアプローチ 残念ながら労災補償システムは規制や管理の考え方が州によって異なることから、そのような研究を実施する上での障壁となる。無作為比較研究が完了するにはおそらく何年もかかる。それまでの間、何をすべきであろうか? 「仕事に関連した脊椎の病態があり、脊椎手術を検討中の患者については、今のところ慎重論が唱えられている」とAtlas博士は最近の電子メールで述べた。 「労働年齢の患者に対する手術を支持する最良のデ一夕が得られているのは、腰椎椎間板へルニアに対する顕微鏡視下椎間板切除術である。 しかし、利用可能なエビデンスから、そのような労災補償請求患者における手術の効果は良くても限定的であることが示されている」。 「慢性腰痛に対する脊椎固定術を検討中で労災請求を行っていない患者については、利用可能なエビデンスから手術の効果はさほど高くはなく、積極的なリハビリテーションと変わらないことが明らかである」と博士は指摘した。 したがって、画像検査で一般的な変性性変化が認められる慢性腰痛患者は、治療法の選択に慎重になるべきである。 Alias博士によれば「労災補償を請求している同様の患者は、手術の役割を検討する上でより一層慎重になるべきである」。 脊椎固定術はめったに行われない手術であるべきか? 整形外科医のStanley Bigos博士は最近の電話インタビユーで、労災補償患者に対しては脊椎固定術はめったに行われない手術であるべきだと強調した。 Bigos博士は、 この患者集団では特定の病態に対する脊椎固定術が決まった効果を発揮してきたとは言えないと述べている。 博士は「この手術には適応の見極めが必要である」 としている。この手術によって悲惨なアウトカムがもたらされることもある。 そして「脊椎固定術はほとんどの労災補償請求患者には適さない。なぜなら、治療成功の確率が低く合併症と有害事象の発現率が高いためである」と付け加えた。 博士は、脊椎固定術は明らかに脊椎の不安定性のエビデンスを有するごく少数の患者集団に限定して実施すべきだと考えている (CalTageeetal.,2006を参照)。 また、そのような患者集団であっても、慢性腰痛のある労災補償請求患者はしばしば雇用問題や心理・社会的問題に直面しており、それによって治療の失敗や長期活動障害のリスクが上昇する可能性があることから、固定術を実施するかどうかは慎重に検討すべきである。さらに労災補償をめぐる争い自体が治療成績を悪化させる可能性もある。 参考文献: Atlas SJ,Point of View,Clinical outcomes after posterolateral lumbar fusion in workers' compensation patients:A case-control study, Spine,2010;35(19):1818-9. Atlas SJ et al.,Long-term disability and return to work among patients who have a herniated lumbar disc: The effect of disability compensation,JBoneJoinlSurg Am,2000; 82(l):4-l5. Atlas SJ et al.,The impact of disability compensationonlong-term treatment outcomes of patients with sciatica due toalumbardisc herniation,Spine,2006;31(26):3061-9. Atlas SJ et al.,The impact of workers'compensationonoutcomesofsurgicaland non- operative therapy for patients with a lumbar disc herniation: SPORT, Spine, 2010; 35(1):89-97. CalTageeEJet al.,A gold standard evaluation of the“discogenic”diagnosis as determined by provocative discography,S/,me,2006;31(18):2115-23. Carreon L et al.,Clinical outcomes after posteroIateraIlumbar fusion in workers' com- pensation patients: A case-control study,Sprue,2010;35(l9):l812-7. Juratli SM et al.,Mortality after lumbar fusion surgery,Spine,2009;34(7):740-7. Nguyen TH et al.,Long-term outcomes of lumbar fusion among workers'compensation subjects,Spine,2010[Epub ahead of print];doi:10.1097/BRS.0b0l3e3l8lccc220. TheBackLetter25(11):121,127-130,2010.■ ![]()
by junk_2004jp
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