人気ブログランキング |

心療整形外科

junk2004.exblog.jp
ブログトップ
2011年 12月 01日

慢性腰痛は腰椎の1ヶ所の「疼痛発生原因」で説明されるか?

Can an Isolated''Pain Generator”in the Lumbar Spine Explain
Chronic Back Pain?

学会は、 その専門の医学分野について、また一般的疾患の診断、治療および予防に関する学会員の能力について、過度に楽観視することが多い。

しかし、最近オーランドで開催された北米脊椎学会の年次総会のシンポジウムでは、小気味良いほどの方向転換がみられた。 このシンポジウムでは、慢性腰痛の診断、治療、および理解は難しいという正直な調査結果が果敢にも発表された。

「The Evolution of the Pain Generator: Implications for Practice(疼痛発生原因探索の革命:臨床診療への関与)」 と題したシンポジウムは、University of WashingtonのChristopher J. Standaert博士が計画し司会を務めた。バネリストは神経科学、遺伝学、心理学、外科学、および理学療法、 リハビリテーションなどの複数の科学分野の専門家であった(Standaertetal.,2010を参照)。

Standaert博士によれば、彼自身とその研究グループのメンバーは、 この分野の科学的エビデンスに対する多様な専門領域からの見解を得たいと考えた。博士らは、腰椎のある1ヵ所の局所的な疼痛発生原因(pain generator) という概念が依然として妥当なものか、あるいはこれは単純化し過ぎたモデルであって、すでに有用性を失っているのかを知りたいと考えた。

Standaert博士は「痛みの原因は我々の技術をもってすればわかると期待している」としている。しかし、そうして得られた答えから慢性腰痛の妥当な説明がつくのか、あるいは慢性腰痛の治療が大きく前進するかについては明らかではない。

シンポジウムは意義深いものであった。 前述の各専門分野の代表者は相互コミュニケーションという点に関しても、明らかな問題を抱えており、そのことを隠そうとはしなかった。彼らには、疼痛研究のための共通言語と統一されたアプローチが欠けていた。しかし、それが現時点でのこの科学分野の実態である。

パネリストらは、特定の疼痛発生原因に起因する慢性腰痛の診断方法や治療方法について、多くの簡単なアドバイスを示したというわけではなかった。この場では、慢性腰痛のほとんどの根本的原因やメカニズムは、科学的研究によってまだ特定されていない、という合意が得られたに過ぎなかった。

シンポジウムに続く討論では、神経科学者であるNorthwestern UniversityのVanna Apkarian博士が「我々は、慢性疼痛についても慢性腰痛についても理解できていない」と認めた。そして「慢性腰痛の病態生理がまだ理解できていない」とした。

Apkarian博士は、慢性疼痛の有効な治療法は明確でないと述べ、「これらの病態に対する科学的裏付けのある治療選択肢はごくわずかしかない」と付け加えた。

しかし最近、脳画像検査や遺伝学に科学的進歩がみられているので、前進の道筋が示されているとも述べた。現在では、先進画像検査によって疼痛を「客観化」し、疼痛の脳における解剖学的・機能的パラメータを調べるという研究方法が可能になっている。

その結果、脳の可塑性、すなわち脳が疼痛に反応してどのように変化するかが次第に明らかになってきた。例えば、今では脳画像検査によって急性腰痛や慢性腰痛を始めとするさまざまな疼痛のサインを識別することが可能である。

「それぞれの臨床的病態に特異的なサインに基づいて、標的治療を開発できるかもしれない」とApkarian博士は述べている。

また、著名な遺伝学研究者であるHarvard University の Michael Costigan博士は、慢性疼痛の新たな治療法の開発において進歩の見られる点、あるいは見られない点について率直な評価を下した。 「経験上、これまで我々は疼痛の病理学的メカニズムの特定および新たな鎮痛薬の開発のいずれにおいても失敗してきたと思う」。

ただし博士は、慢性疼痛の素因となる遺伝要因ならびに遺伝要因と環境要因の相互作用についての理解を深めることにより、脊椎医療は大変革を起こすかもしれないと述べている。

そう遠くない将来、慢性腰痛の特異的な疼痛メカニズムが特定され、それらに対して特異的治療を行われるようになるかもしれない。「我々はいくつかの驚くべき変化を体験するだろう。そうした治療の開発には時間がかかるが、その時は近づいている」とCosligan博士は述べている。

1ヵ所の疼痛発生原因を探す長年の探究

では「疼痛発生原因」とは何か? これは20世紀初めに生まれた概念である。しかし、実際によく使われるようになったのはここ数十年である。この用語は、椎間関節症候群から仙腸骨障害、椎間板に起因する疼痛まで、原因が特定されていない腰痛の説明に使用されることが多い。

シンポジウムの司会者を務めたStandaerl 博士は、開会挨拶で「疼痛発生原因」の定義について次のように論じた。「“疼痛発生原因”があると考えることは、疼痛を誘発する何かがあること、そして、それを剌激することにより常に普段の症状が表れることを確認できるということである。その上で望まれるのは、原因を何らかの方法で遮断、除去、破壊、または鎮静化することである」。

博士は「しかし、患者に痛みを与えても慢性腰痛患者の脳で起きていることが、必ずしも再現されるわけではない。腰痛の誘発は可能かもしれないが、必ずしも患者の疼痛経験全体が再現されるわけではない」と述べた。

「局所的な疼痛発生原因という考え方は非常に単純なモデルであり、日常生活で起きる他のありとあらゆる種類の出来事を無視したものである」と博士は付け加えた。 「もし、金銭上のトラプルがあったり、意地悪な上司がいたり、 有害な仕事環境であったり、弁護士に付きまとわれたり、家族の誰かに疼痛疾患があったら、 どうであろうか? あるいは患者が虐待や外傷、 無視を受けていたら? それに加えて患者がうつ病または薬物乱用者であったら、 どうであろうか?」

「“疼痛発生原因” を取り除くことは可能であるが、 その人の生活が改善されていないように思えることも多い。我々は取り扱っている問題がどのくらい複雑なのか、実際には理解していないのである」 とStandaert博士は述べた。

博士は、慢性腰痛に対する現在のアプローチが時には有効であることを認めている。 しかし、全般的に現代医学は慢性腰痛の治療に対してはそれほど進歩していないと述べている。

博士によると 「今のやり方で本当にこの問題の真相を突き止められるのかと疑問に思っている人々がいる」。
Standaert博士は「治療費や受療率は急増している」 と述べ、 次のように続けた。 「しかし、 機能的な障害を伴う腰痛を報告する人々の数も同様に急増している」(Martin eta1.,2008を参照)。腰痛に対する現在の医学的アプローチが症状や機能的障害を悪化させている可能性がある。

Standaert博士は、遺伝学、脳科学、心理学、 およびその他の専門分野の相互作用により、やがては慢性腰痛に対してより有効性の高いアプローチが可能になるだろうという楽観的な意見を述べた。

Standaert博士の説明によれば「患者選別とは、適切な患者に対して、適切な時期に、適切な治療を行うことである」。現在、患者選別の過程は慢性疼痛の治療にあたる医師にとって大きなフラストレーションの原因になっている。

「しかし、 いずれは特定の疼痛メカニズム、遺伝的脆弱性、 および個人の心理社会的性質に適合した治療を行うことが可能になるだろう」 と博士は断言した。

疼痛メカニズムが明らかになった後

慢性疼痛では、最初の原因となった損傷や疼痛メカニズムが雪だるま式に拡大して、はるかに大きく厄介な問題になるという事実についても、長時間にわたり議論が行われた。そして、狭い範囲の疼痛メカニズムの解明が必ずしも範囲の広い症候群の解消につながるとは限らないことについても論じられた。

シンポジウムに聴衆として参加していた医師の一人は、一部のバネリストは慢性腰痛を狭く捉えすぎていると注意を促した。

その医師は「疼痛を問題にしていると、医師は疼痛以外の多くの問題も治療しているという事実を見失ってしまうことがある」と付け加えた。疼痛以外の多くの問題とは、疾患、活動障害、機能低下、個人的目標を達成できないこと、などである。この医師は「これらすべての問題には、別々のアプローチが必要になると思う」と述べた。

心理学者のAlan Weisser博士は、急性症状と慢性疼痛の治療経験には差があり、後者には疼痛の重ね合わせ(overlay)という問題が付随することを強調した。

Weisser博士は「1回つまずくのと1年間つまずき続けるのは別の問題である」と述べた。「医師は慢性疼痛患者に何が起きているのかを理解する必要がある。そして、長引けば膨れ上がる費用についても理解が必要である」。

多くの腰痛患者では、慢性疼痛に付随してさまざまなネガティブな経験や事象、すなわち身体機能の低下(decondilioning)、不安、うつ病、恐怖回避行動、および自己感の喪失などが認められる。

Weisser博士は「最初の原因となった損傷や疼痛メカニズムの治療にあたらなくても、これら多くの問題に対処する患者を手助けすることは可能である」としている。しかし、そうするには患者の疼痛経験の全体像を理解することが必要である。

Weisser博士は「これらの問題の中には、完全な解決法や低減が可能なものもある」として、「慢性疼痛の感じ方を変える方法は多くある」と指摘している。

Weisser博士は「患者は1、2年間治療を受けた後で“同じ痛みはあるが感じ方は以前と違う”、“以前のような機能への影響はない。痛みによって活動が妨げられるとは感じない”と述べることが多い」としている。

本質的な意見の不一致

前述のようにシンポジウムのパネリストの間には、 本質的な意見の不一致があり、議論が白熱した。

しかし、 最終的にはハッピーエンドとなった。 より良いコミュニケーションと集学的協力関係が必要であるという点で、 バネリストらの意見は一致した。 2時間にわたる討論の結果、 バネリストらは今後も定期的に会合をもち、 共通言語を作成し、 この分野の研究開発について見通しや批判的意見を交換したいと表明した。


「我々いくつかの驚くべき変化を体験するだろう」

「より良いコミュニケーションと協力関係が必要であるという点で、パネリストらの意見は一致した」


参考文献:
Martin BI et at.,Expenditures and health status among adults with back and neck problems, lAMA,2008;299:656-64.

Standaert CJ et al.,Symposium:The Evolution of the Pain Generator:Implications for Practice,presented at the annual meeting of the North American Spine Society, Orlando, 2010;unpublished. TheBackLener26(2):13,20-21,2011

by junk_2004jp | 2011-12-01 23:01 | BACKLETTER | Comments(0)


<< 読者より      日本では痛みの治療は、先進国の... >>